☆13 意図しない巡り会い

 ひかりは振り返って驚いた。大きな帽子を被り、サングラスを掛けて花束を抱えた少女がいる。驚いているその顔は、自分のものと酷似していた。

 まるで、クローン。

 でなければ、世界に三人いるという、自分と全く同じ姿の人間。ドッペルゲンガーに巡り会ったかのようだ。


 急に、全ての音が聞こえなくなった。聞こえるのはうるさいほど響く自分の鼓動のみ。全ての色もなくなったかのようだ。一面が灰色になっている。驚いている龍巳たつみ聡貴さとき、デリスト、スー、リタ。皆、灰色に見える。

 そして、スローモーションのようにゆっくりと、洸は何かに導かれるように手を伸ばし、少女の帽子に手を掛けた。手を動かして、その帽子を剥ぎとる。つられるように、帽子に引っかかったサングラスが落ちた。

 がしゃんと硬い、砕ける音がしてサングラスが地面に叩きつけられた。

 その瞬間、全てが元に戻った。

 剥ぎ取られた帽子から、流れるように零れ落ちたのは、紅。上げられた顔の、二つの瞳。

 髪の間から覗いた自分と全く同じ形の瞳の色も

 紅

 血の色

 紅

 紅 紅 紅


 血の色


「いやぁあああああああああああああああああああああああっ!!」

 洸は頭を抑えて絶叫した。激しい閃光が、洸の体からとめどなく迸った。それは柱のように立ち上り、洸の頭に被っていた野球帽を吹き飛ばした。

 青い髪が広がる。


 血 ちのいろ

 チノイロ

 血の、色―――――


 憎い、敵の色

 お父さんとお母さんを殺した女の、目印……

 力が収まらない。止まらない。

 苦しい!


 光に包まれたまま叫び続けた。目の前の少女は怯えた様子でこっちを見ている。洸は、自分の力に吹き飛ばされそうになるのを抑えながら、悲鳴を飲み込み、キッと閉じていた目を開いて、少女を憎しみのこもった目で睨み付けた。

「……ろし」

 顔を歪めたまま、洸は搾り出すように言った。

「人殺し!」

 叫ぶと、少女はだっと後ろを向いて走り出した。

「あっ!」

「龍巳! あの子を追って! 明らかに訳有りよ」

 驚きで酔いも眠りも冷めたリタが指示を飛ばした。龍巳は洸が気がかりな様子だったが、翼を開き、言われるままに少女の後を追った。

 少女が見えなくなる位に遠ざかると、洸の体から放たれていた光はだんだんと治まり、がくんと地面に膝をついた。

「洸!」

「洸さん!」

「だい……じょ、ぶ……」

 胸が痛い。

 心臓の動悸は激しく、開かれた唇からは勝手に空気が漏れるような音がする。

 疼く胸の辺りを、洸はぎゅっと握り締めた。

(こんな所に居た)

 あいつ……

 ずっと、探し続けた敵だ。

 絶対に、追い詰めてやる。

 額から汗が滴り落ち、洸は爛々と光る目で、少女の駆けて行った方向を睨み付けていた。


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