★12 突然の遭遇

紅恋くれんは手に小ぶりの向日葵の花束を抱えて、弾むように歩いていた。

「おじさん、喜んでくれるといいな」

 彼女は楽しげに向日葵に顔を埋めた。少し遠くに雑貨屋が見えてきた。そこの前には、地面にへたっている大きい男性と、それよりは小さい、まだ男の子のような人、そして、その人よりもっと小さい男の子。

 それに、野球帽を被った男の子がいる。

 お祭りだから、観光客の人でも来てるのかな。

 紅恋はそう思いながらすたすたと近寄って行った。近くに行くと、野球帽を被っているのは、少年のような格好をしているが、女の子のようだった。男の子はぐしょ濡れだし、小さい男の子と男の人――男の人は結構若くて、まだ少年と言ってもいいくらいだった――は、かなり疲れているみたいで、大きな荷物に寄りかかっている。

 紅恋は店の中に雑貨屋の店主を見つけると、元気よく声を掛けた。

「おじさん! チケットありがとう。楽しかったわ!」

 すると、野球帽を被った少女は、紅恋の方に振り向いた。

 一番初めに目に飛び込んできたのは、サングラスからでも何故かはっきりとした色をしている青い瞳。

 真っ青な瞳。

 そして次に目に入ったのは、そんな目をしていながら、自分と同じ日本人のような顔立ちをしている少女の顔。

 しかも、その顔は自分の物とそっくりだった。

 同じもののように、まるで姿がそのまま写し取られたかのような、姿。

 まるで鏡面だ。

 同じ形の瞳。しかし、色だけは紅恋とは全く異なる色。

 しかも、彼女の瞳は普通の青い瞳とは違っていた。

 なんて綺麗な青。深い青。

 何も考えられなくなりそう。

 紅恋の頭の中を何かがよぎった。

 どこかで、同じ瞳を見たような気がする――――

 紅恋は、目の前の少女の手が自分の顔に近づいて来ている事に気がつかなかった。

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