☆12 帰路


「うぉー……世話が焼ける」

 デリストは、真っ赤な顔をして眠り込んでいるリタを背負って歩いていた。

「こいつ、見かけによらず重てーし……」

「なんれすってぇ!?」

 彼がそう口にした途端に、リタはがばっと身体を起こしてデリストの頭を両手で叩き始めた。

「うわっ! いて、いてぇ!」

「おとめになんてこというのよぉ! ばかのっぽ!」

「そりゃのっぽだけどよ! 馬鹿はおめーだろ!」

「うるさーい! はんせいしなさいよーっ!」

 リタは叩きながらわざわざ超能力を使って、デリストの両耳を捻り上げた。

「いてぇー!」

「はんせいした!?」

「した、したから!」

「ならよぉし!」

 そう言うと、リタはまた脱力してデリストの背中に身体を倒し、安らかに眠り始めた。

「わけわかんねぇよ……」

「大変だねぇ」

 デリストは痛みと理不尽さに泣きそうになっていた。ひかりはそんな様子を見て苦笑いした。チームの面々はある程度騒ぎが収まった所を見計い、騒ぎから抜け出してきたところだった。もう一泊してから組織に戻ることになっているので、とりあえずホテルに戻ろうと帰り道を歩いている。

「それにしてもっ、なんで、女ってのは、こんなに、買い物を、したがるんだ、ろうな!」

 聡貴さときはデリストがリタを背負わなくてはならなくなって、皆に分担された荷物の重さによろめいているところだった。背の低い彼は箱を幾つも抱えていて、それのせいで前が見にくいのだ。

「うーん……なんでなんだろうねぇ」

「でも楽しいんですよ」

 洸は紙袋を三つばかり、スーも同じくらいの量を持ちながら思い思いに答えた。

「さっちゃん、大変だったらおれ一個持ってあげるよ?」

 龍巳たつみは全身ずぶぬれで、できるだけ体から離しながら、紙袋を両手合計で四つ、箱も三つばかり持っていた。

「さっちゃんて言うな!」

「龍巳さんに持ってもらうと、せっかく買ったものがぐしょ濡れになっちゃいそうで怖いです……」

「濡れたくて濡れたわけじゃないよー」

「酒飲んで酔いつぶれて起きないからいけないの」

 彼はひっぱたかれようが何をしようが起きなかったので、デリストに目が覚めるように冷え切った水を起きるまで何度も掛けられたのだ。

「頭いてぇしー、もーやんなっちゃうーっ」

「もう二日酔い?」

「違う、ひーちゃんたちがばこばこ叩いたからっしょっ!」

「大丈夫だって、それくらい。保証する」

「ひーちゃんは俺の頭を何と思ってんの!」

「うーん、体の上に乗ってる……もの?」

「えっ、何! 何!? なんだってぇの!」

 本気で戸惑いながら、洸は答えを続けた。

「……としか、思えないけど」

「そんなー! たいへんおりこうなおつむじゃありませんか!」

「はいはい」

「やだわー! 冷たいわー! おうっ、大変コールドでございますけれど! そういえばびしょ濡れでしたね! こいつぁ驚いた! 冷たいなあー。俺を! この無邪気できゅーてぃくるな俺を!」

「キューティクルは髪の毛の用語でしょ」

 洸はため息をつくばかりだ。

「うー……なんだよう。冗談じゃんジョークじゃん……」

「龍巳さん、悪ふざけが過ぎるんですよ」

「悪ふざけ!? 何スー! 俺いたって真面目だし! 俺は、ただ、微笑みをみんなに届けようとね」

「うわぁ……わかってない」

「頭おかしいな。今に始まったことじゃないけど」

「龍巳さぁ、お前あんな風に言われてていいのかよ」

「いくないに決まってんだろぉ!? デリストぉ、お前だけは俺のことを分かってくれてるよなぁ!? なぁ! コンビ組もう! お笑いオーディション受けよう! コンビ名はのっぽとイケメンで」

「そんなん言われてもなぁ。拒否以外の選択肢ないだろう」

 洸はそんな会話を聞き流しつつ歩きながら、龍巳は一生ああなんだろうな、などと、彼が聞いたらまたわめきだしそうな事を考えていた。

 ふと横を見ると、可愛らしい雑貨屋がある。

「可愛いですね!」

 足を止めた洸に追いついて、スーも雑貨屋に眼を留めた。

「デリストさん、ここ! ここも見ていかせてくださいよ」

「まだ見るのかぁ~?」

 彼はうへぇと抗議の声をあげ、聡貴は荷物を下ろして不平を垂れた。

「全く。本当に分からない。あれだけ買い物してまだ見てくっていう神経と体力はどうなってるんだよ」

「聡貴っちはちょっとまっててよ」

 洸は笑いながら店の前に出されている物を眺め始めた。

 店の中はそれほど広くなく、スーは町の景色が印刷されたポストカードを手に取っていた。その時、店の奥から少し太り気味で頭の禿げ上がっている店主と思われる男性が出てきて、洸に目を留めた。

「おや、お譲ちゃんじゃないか。どうだい? お祭りは楽しかったかい? 今日は随分と変わった格好をしているね」

「え?」

 その時、後ろのほうから元気のいい声が聞こえてきた。

「おじさん! チケットありがとう。楽しかったわ!」

 洸は振り返った。

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