第3話
俺は、いつもと同じように愛車のマウンテンバイクに跨り、バイトの時間より1時間早く家を出た。近くのコンビニで立ち読みする為だ。
いつもと違うのは、途中で幼馴染に遭遇した位の事だ。幼馴染――轟天音は、小学生の頃からの友人だ。家も近く、同い年だったこともあり、学生の頃はよく一緒に遊んだものだ。お互い高校を卒業してからは、前ほどは会わなくなったものの、月に2、3回は顔を会わせている。
つい1週間ほど前にも顔を会わせたこともあり、その際にも他愛のない話をしていたので、今回も日常の範囲内の出来事のはずだった。
「響介!出来たぞ!!」
おはようの挨拶もかっ飛ばしてこの発言を受けたものだから、俺は少々面食らってしまった。
しかし、この幼馴染がぶっ飛んでいるのはいつもの事なのでそこまで驚きはしない。
天音は、控えめに言っても天才だった。
小学生の頃は神童などと呼ばれ、テストは100点が当たり前、中学校に入ってもその頭の良さは衰えることはなかった。
そう、頭の良さは、である。
確かに勉強は完璧だったが、中学校に入学してから少しして、天音は変わり始めた。
元々唯我独尊気味ではあったが、周りに会わせることもきちんと出来ていたし、会話もきちんと出来ていた。
だが、中学生になってからというものの、その唯我独尊ぶりが暴走し始める。
特定の人には馴染み深い、いわゆる中二病というやつだ。
自分の感覚をそのまま伝えるものだから、俺以外の人間にほとんど伝わらず、中学時代は天音の通訳として常に一緒にいた。
高校に入ってもそれは変わらず、中高の6年間を俺はこいつといることを余儀なくされた。
まあ、頭のいい天音と一緒にいたおかげで勉強に苦労することはなかったが、彼女のノートは翻訳が必要なほどまとまりがなかった為に、俺ですら解読に苦労したものだ。
そんな天音通訳のプロフェッショナルである俺から言わせると、先程の発言は1週間に行った会話の続きであると推測できる。
一週間前の話題を振られて対応できる奴はいないなどという野暮なツッコミはしてはいけない。何故ならそれこそが轟天音であり、その天音通訳のプロフェッショナルを名乗る以上、最低限必須の能力だからだ。半年前の話題を振られないだけマシだ。
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