4 行くか帰るか

『嘘?』


 パソコンの画面でメイが首をかしげる。

 自宅に帰り、皆で示し会わせた時間に通信アプリを起動すると、ほどなく揃って繋がった。


「ああ。オレは人の仕草や目線で、相手が嘘をついてるかどうかをある程度判断できるんだ。それをごまかす技もあるけど、あの倉敷とかって人がそれを習得してるとは思えない」

『ふむ。ちなみにどの辺りが嘘だった?』

「異世界を調査して欲しいとか、口止めはいらないとかってのは本当ですね。ただ、転移者を日常に返すってのは、嘘の兆候が見えました」

『やっぱりな』


 サクラさんが1人頷く。


『サクラさんは、わかっていたのですか?』

『予想はしてた。魔素とかいう奴で、こっちからの人材が数時間しか活動できない場所を、転移者はずっと過ごせるんだぞ。だったら政府で雇うって言って、そこらの企業より高めの給料を提示して囲うだろ』

『ですが、怪物に恐怖を覚えたのでしょう?』

『んなもん、警官なり自衛官が交代で護衛に付くとか言えば良い。転移者は戦わず、何かの技能をこっちで習得してから、向こうで仕事をする事にしとけば、納得する奴もいるだろ?』


「でも仕事って何を?」


『農業、林業、建設――大工技能辺りが基本かね。こっちから物資を持ち込めないのが痛いが、それをなんとかする為に、まずはサバイバル技能の習得がいるか』

『それを転移者に習得させて、向こうで暮らさせるのですか?』

『いきなり暮らさせるよりは、こっちからの通勤だろうけどな。確か、近くに村があるとか言ってたし、まずは技術の伝達からの友好交流だろうな。そのあたりはすでにやってんだろうけど』


「でも、向こうからこっちには何も持ち出せないんでしょう? 利益がない」


『今のところはな。だが、いずれ転移の仕組みなり魔素の対処なりが解ったとしたら?』

『つまり、先行投資ですか?』

『もしくは、侵略準備かね』


「侵略、ですか?」


『文明レベルが低いとか言ってたからな。奴隷制度でもあれば、人道的支援とかの大義名分で植民地化できるだろ。最新兵器とまでは言わないが、それなりの銃器でも造れれば、向こうの軍隊じゃ対処できない可能性は高い』


 そこまで語ったところで、サクラさんは肩をすくめる。


『まあ、アタシらがそんなことを気にしても、どうにもならないけどな。そもそも転移の仕組みだの魔素の対処だの、簡単にはわからんだろうし』

『そもそも転移が日本だけという根拠もありませんね。他の国――例えばアメリカでも同じような事がおきてるかもしれません』

『だな。下手な事して、こっちの世界で吊し上げくらう可能性もあるだろうし、だからこその情報収集なんだろうけど』

『……あのさ。なんかむじゅかし過ぎて、わかんないんだけど』


 あまり意見を言わずにいたメイが、頭から湯気を上げていた。


『はは、そうだな。……あれこれ言ったが、要するに政府の庇護で仕事した方が楽だって話だ。物資を持ち込めないんじゃ、支援も無理がある。旅するなら、自分たちで資金なんかも稼がなきゃならない。それを踏まえたうえで――お前ら、どうする?』


 ……確かに危険が多い旅よりは、安全性が高いうえで普通にこっちに帰れる方が良いのかもしれない。

 だけど……。


『はい、は~~い! ウチは旅に行くよ! だってその方が、おもしろそうだし』


「おもしろそうって……あ~~、でもオレも同じようなものか」


『そうなの?』


「子供の頃からずっと家の剣術をやってきたけど、日本じゃ生かしどころがないんだ。修行はキツかったけど、嫌いじゃなかった。異世界なら、今までの頑張りが報われると思うんだ」


まあ、それだけじゃないけど。


「ミソギさんは?」


『私も行きます。なぜ異世界に転移したのが私達なのか。偶然か、理由があるのか、自然現象みたいなものか、何者かの介入があるのか……大変興味がありますから』

『じゃあ、全員行くのか』

『って事はサクラさんも行くんだね』

『ああ。元々大学出たところで、何かしたい事があるわけでもなくてな。ただただ、適当な仕事して、適当に生きそうな気がしてた。だから、今回の事は良い転機になりそうでな。とはいえ……』


 サクラさんは困ったように眉を下げる。


『向こうの世界にまずは慣れないとな。言葉も違うだろうし、今日みたいな怪物だっているんだ。今のところ、私は単なるお荷物だからな。さっきも言ったが、日本からの支援もあんまり期待できないからな。物資が持ち込めないのは、やはり痛い』

『それに関してなんですが、ちょっと私に考えがあります』


「ミソギさん?」


『あの――』

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