3 内閣府異界管理省
「つまり、あそこは異世界でまちがいない?」
サクラさんの言葉に初老の男性は頷く。
ここはさっきの部屋ではなく、コンクリートで作られた幾分広めの部屋――㖦京のビルの一室だと、初老の男性は言う。
この男性は
出されたコーヒーを啜りつつ、さっきまでのことを思い出す。
最初に閉じ込められていた部屋を出ると、そこは深い森の中だった。
オレ達が閉じ込められていたのは、そんな森の中にポツンと建てられた石積の建物――祠? みたいな物だった。
その祠の脇に、最近作った感じの木造の小さな物置があり、その中にフリーサイズのスウェットらしき服が多数置かれていて、オレ達に手渡された。
いつまでも下着でいるのも嫌なので、そこは素直に受け取り着ることにして、さらにサンダル……というよりも草履らしき履き物も貰う。
その後、詳しいことは落ち着ける場所で話そうと、謎の男女に促されるまま10分程歩いた先に、コンクリートで囲われた小屋まで案内された。
その小屋のドアを開けた先に、小屋の大きさを遥かに越える長い通路があった。
そこから、明らかに空気が変わった。
それは悪い意味ではなく、どこかホッとする感覚だった。
男性――倉敷さんは、通路に入ってから比較的近い位置にある、別のドアを開く。
そこが、今いるこの部屋だ。
ちなみに一緒にいた女性は、この部屋に来た時点で引き返していた。
あのホブゴブリンを処理しに行くと言っていた。
そしてここが㖦京で、さっきまで――通路に続くドアの手前までが、異世界だった話を聞いたのだ。
「で、アタシらにあっちの世界を調査して欲しいって?」
「ええ。日本政府があちらの世界との接点――あのドアを発見してから5年程経ちますが、未だにあちらの情報はほとんど解っていないのですよ」
倉敷さんは、苦笑いを浮かべる。
「あのドアから30分程歩くと森を抜けるのですが、そこに小さな農村があります。そこに住んでいる人々とは交流できたのですが、どうやら向こうの世界はこちらに比べて未発達らしく――」
それからしばらく、倉敷さんから向こうの世界のことを聞いた。
要約すると、文明レベルが低く、人々の移動手段が馬車か徒歩。
情報伝達が手紙か口伝。
そんな世界の片田舎の農村では、あまり情報は集められない。
なら、こちらから車なりなんなりを送ればと思うが、世界を跨いでの物品の移動にやたら制限があるらしい。
移動できるのは、極少量の天然物のみで、金属の類いは更に量が絞られる。
オレ達が向こうに転移された際に、下着姿になったのもこの制限のせいで、化学繊維がアウトだからだそうだ。
運良く? 下着は綿やシルクなんかだった為に残ったらしく、それも化繊だったら素っ裸にされてたらしい。
更に向こうの空気には魔素とか言う、こちらにはない成分が交じっているらしく、耐性のないこちらの人間は、向こうに2~3時間程いると体調に悪影響があるのだそうだ。
なので、政府が動かせる人員を向こうに派遣しての調査にも限界があるらしい。
ただ、オレ達のように、向こうに転移された人間は魔素に耐性ができるのだとかで、向こうで過ごしても平気だそうだ。
それが理由で、倉敷さんはオレ達に調査を依頼したいという。
「転移の仕組みは未だに解りません。誰が、どういう基準で選ばれるのか、なぜ転移すると魔素に耐性ができるのか……」
日本政府が異世界を知ってから、オレ達を除いて転移した人間は全部で32人。
倉敷さんからの調査依頼を受諾した人数がその半分。
そして、未だに調査を続けている人数が0だ。
理由はあのホブゴブリンみたいな怪物達の存在。
脅かされて逃げ帰った数名はまだましで、残りは全滅したそうだ。
だからこそ、ほとんど裸の状態でホブゴブリンを打倒できたオレ達に期待したいらしい。
「断ったら消されるのか?」
サクラさんの言葉に、倉敷さんは肩をすくめる。
「そんな事はしませんよ。普通に元の生活に戻っていただくだけです」
「でも国家機密だろ? 口外されたら困るんじゃないのか?」
「国が異世界の入り口を管理し、諸外国に黙ったままその地を調査しようとしていると? 間違いなく冗談としか受け止められませんよ。口止めすら必要ありませんね」
「……成る程」
…………。
「まあ、いきなりは決めかねるでしょう。それぞれ自宅にお送りしますので、数日中にお返事下さい」
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