6 旅立ち
そして夜、なんだが――。
部屋の中に皆の喘ぐ声が響き、ベッドがギシギシと激しく軋む。
オレは1人、ドアの脇に膝を抱える様にして座り込んでいた。
ミソギさんが提案した旅の方法というのが、これだ。
お金……もしくは、そのかわりになる何かと引き換えに、性の相手になる。
要するに娼婦である。
需要の見込みが高く、長期に拘束されるような事もなく、なんならピロートークで情報収集もできる。
この件での多数決は、賛成3、反対1だった。
というか、反対1はオレだ。
……結果、オレだけ未経験なのが判明した。
以来、メイがやたらとからかってくるのがウザイ。
参加しないのに部屋にいるのは、サクラさんから「慣れろ」と厳命されたからだ。
今後、オレには受付兼見張りをしろと言われている。
その為、近くに居なければならず、せめてこの状況には慣れないといけないのだ。
ちなみに、この世界はホブゴブリン以外にも、人間を相手に繁殖する怪物がいるらしく、魔法の中でも避妊や病気に対するものは、かなり発達しているのだそうだ。
なお、ラライサ村で事情を話したところ、それなりに希望者がいた。
この世界でも娼婦って商売はあるのだそうだが、普通はいくらか大きめの町に娼館を構えて客を待つものらしい。
だけど、ゴブリンなんかの怪物や盗賊も普通にいる世界で、村から移動するならそれなりに金を払って護衛をつけるのが普通……となると、小さな村の男には、なかなか厳しい額になってしまう。
だから、小さな村は男が性欲をもて余しがちなんだそうだ。
年に数回、祭りの行事的にアレコレ解消する算段にはなってたりするらしいけど。
とまあ、そんなわけで、オレ達の話はかなり村で歓迎された。
ちなみにこの件に関して、倉敷さんーーというか、日本政府は何も言わない。
売春……しかもオレとメイは年齢も踏まえて日本では法律に引っ掛かるが、ここは異世界で、支援もままならない政府としては、意見をだせる立場にないらしい。
…………。
2つ並んだベッドの片方に寝た若い男にメイが跨がって腰を前後に揺らしている。
ギシッギシッと軋む音が生々しい。
その隣では初めてらしい少年に、ミソギさんがあれこれレクチャーしながら手解きしていた。
サクラさんは床に四つん這いになり、その腰をそれなりに歳がいってる村長が掴んで、後ろから突いていた。
ちなみにこの部屋は、この為に用意してもらった部屋である。
匂いやらなんやらの痕跡が残るので、さすがに自分たちの寝床ではやりたくない。
何とか表面上は平静を保って思考しているーー様に装っているが、内心はかなりパニック気味だ。
だ、だってアレコレ、初めて見るものばかりなんだ。
しかも、知り合って間もないとはいえ、それなりに一緒に過ごした人達がこんな事してるのを間近で見てて、見て、……うわ、あんな事もするのか!?
大丈夫なの?
……。
どうしよう。
どうにも、変な気分になる。
…………。
………………////。
ーーそして1月程が経過した。
「よし、じゃあ出発するか」
オレは馬車を引く馬に極軽く鞭を入れる。
オレ達の乗る馬車は4人で乗るには結構大きいサイズのものだ。
旅の荷物ももちろんだが、村や町の宿とは別に、この場車内に簡易の寝床を作って、この中でも夜の商売をするのだそうだ。
普通、このサイズの馬車を引くなら馬は二頭立てとなるだろうが、この馬車を引くのは雌の馬が一頭だけだ。
馬──大きさと体格は確かに馬だ。
この世界の人もこの動物を馬と呼び、俺達の世界の馬と同じような動物として扱っている。
だが、俺達の世界の馬とはいろいろな点が異なる。
まず一番の特徴として頭頂部から伸びる30㎝ほどの二本の角がある。
額から一本の角が生えたユニコーンなんて幻獣の話は有名だろうが、この馬はあくまでも動物である。
他に、縦に長方形な瞳孔の目、真ん中で二つに分かれている蹄なんかが俺達の世界での馬とは異なる。
というか―—山羊だ。
体が馬なみに大きいが、他の特徴が山羊のそれである。
……でも顔の形とかは馬なんだよなぁ。
ちなみにサクラはこの馬をバイコーンと呼んでいた。
何処かの神話にそんな動物がいるらしい。
そんな馬山羊だが、俺達みたいな旅人にはとても重宝する存在だ。
まず、俺達の世界の馬と同じくらいの体格とそれ以上の体力があり、馬車を引く事ができるのは当然として、山羊の特性ももっているため、悪路でも割と平気で足を進める。
そしてメスであれば、牛ほどではないにしても乳が絞れる。
栄養と水分を旅しながらある程度保証できるのは実に心強いのである。
ただし、毎朝の日課として乳絞りをしないと、体調に影響してしまうらしいが。
鞭を入れたら「メヒィィン!」と鳴いて、馬車がゆっくりと動き出した。
……まあ、馬だと言われてるんだし、馬として考えよう。
ちなみに名前はバイコ(メイ命名)である。
さすがに旅立ちともなると、倉敷さんもアオバさんも見送りに来てくれている。
とはいえ、もはや何かの話をできる事もなく、無事の帰還を祈ってもらえたくらいだが。
「何とか持ち込める物として、いくらかの布を提供するよ。こちらの世界よりは、縫製が良い物だから、大きめの町なんかなら、売れると思う。こんな餞別しかなくて、申し訳ないね」
「皆さんなら、多少の危険は対処できます。が、基本的には危険は避けて、逃げる様に立ち回ってください。皆さんの無事な帰還が大事なんですからね」
そんな言葉を背後に、いよいよ未知の世界に旅立ちである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます