最終章 二人
第三十八話 私達、新たに。
もう少し、薫ちゃんの物語にお付き合いくださいませ。
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その晩、るみちゃんは一晩中私を質問攻めにした。
今までの自分の人生は「守護霊」の私に操られていたのか?とか、小学校の頃、捻挫した時に守ってくれなかったのはなぜ?とか。
初めのうちは目を丸くして食いついていくるような感じだったけれど、生まれた時から一緒にいるから、るみちゃんが私のことを責めたり怖がったりしてるわけではないことは、すぐにわかった。
「守護」という言葉が、生きてる人には独り歩きしてるのかも知れないと、雨守先生も教えてくれたもの。本当は「ただ寄り添っているだけ」という私の言葉を、るみちゃんはどう受け止めてくれたのだろう?
それだけが心配。
しばらく唸りながら考え込んでいたるみちゃんは、意を決したように顔を赤くして私を見つめた。
「私が先生にキスした時も見てた?!」
『うん、後ろで。だっていきなりなんですもの。』
「うあ~ん! 恥ずかしい~ッ!!」
やっぱり。ベッドの上で激しく悶絶するるみちゃん。
『いいじゃない、私、羨ましかったわよ?
私だって先生のこと好きだったもの。』
いけない!
思わず本心を口にしてしまった時、るみちゃんの動きがぴたっと止まった。
「え?
そうだったの?
守護霊だから、そういうのも私と同じなのかな?
ごめんね、わたしばっかり。」
『そんなことッ! ぜぜぜぜ全然かまわないのよ?
生きてるるみちゃんが幸せになれば、それで私は。
でも見守ってるだけだから、偉そうには言えないけれど。』
「そんなことないよ。
なんだか恥ずかしいとこばかり見られてきたと思ったら、
かえって開き直れたっていうか、安心しちゃった。
今までだって散々失敗してきた私に付き合ってくれたんでしょう?
春の……私の夢遊病の時なんかもさ?」
うわあ……それ、どう説明したらいいのかしら?!
詳細はぼかしておいたほうが?
「それがすごく嬉しいもん!」
え?
「よく覚えてないし、誰にも信じてもらえそうにないから黙ってたけど。
あの時私、現実逃避しまくった挙句、幽体離脱ってのやっちゃったんでしょう?
そしてなんだか気持ち悪い幽霊達に絡まれて、裸にされて……。
でも、そのあと私をこの体に呼び戻してくれたの、あなたなんでしょう?」
うわ……。は、はい!
目を丸くして姿勢を正したまま硬直してしまう!
「ほら!
見守ってるだけじゃ、なかったじゃない。
実はあの時ね、雨守先生のキスで戻れたんならよかったのになって思ってた。
それならロマンチックだったのに、先生にばっさり否定されたし。」
『だッ、だから先日、自分から?』
「そう! だって実感欲しいじゃない?
ほっぺにするのが精一杯だったけれど。」
い、言えない。
私がるみちゃんの体を使った時は唇だったなんて、今更言えない!
瞬きを忘れて硬直している私の顔を、何も知らずにるみちゃんは笑って覗き込んでくる。
「そっか。守護霊でも私の気持ち、全部わかっちゃうわけじゃないんだね?」
『う? うん。そういうことも多々あるわよ?』
お互い様かもしれないけれど!
「それならなおさら嬉しいな。」
『え?』
「だって私が何考えてるのかもわからないのに、
私の情けないところや嫌なところも全部見ながらも、
ずっとそばにいてくれたんでしょう?」
そう言ってるみちゃんはその手を私の手に重ねた。
ああ! るみちゃんは心から私を信じてくれているんだわ!!
なんて愛おしいんだろう?!
それに比べて私……とは全然思わなかった!
黙ってることも、きっと思い遣りよね!!
それにお世辞でもなんでもなく。
『嫌なところなんて全然ないわよ。
あなたの全部が私は好き。
るみちゃんだって、苦手なこと克服したり、成長してきたもの。素敵よ。』
ずっと見てきたんだもの。一緒に泣いたり、笑ったり。
ただ雨守先生を巡っては、それは私も自己主張が過ぎてしまったけど……。
「今までありがとう。
でもこれからもよろしくね! 薫ちゃん!!」
「ええ、るみちゃん!!」
なんだか本当の姉妹になれたような気がして嬉しくて、二人で肩を寄せて笑いあった。
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