揚羽_22
「あげはちょうさん、この度はありがとうございました。施術の準備をさせていただきますのでお電話させていただきました。今お時間は大丈夫でしょうか?」
「はい、大丈夫です」
私はスマホを耳と肩で押さえながら、スタイラスペンからシャーペンに持ち替えメモ用紙を用意した。
「以前お伺いした時、あげはちょうさんはご自身でデザインしたデザインで施術をお願いしたいとおっしゃってましたが、ご用意はできましたか?」
「はい、出来てます」
「かしこまりました。では後ほど、これまで写真をお送りいただいたのと同じ方法で構いませんので、そのデザイン画を私共にお送り下さい。ファイル形式に決まりはござません。直接撮影したものでも結構ですし、デザインソフトのファイルでも大丈夫です」
「はい、わかりました」
「続いて日程についてのご相談ですが、施術後はケアが必要になる為、私共の施設で一泊二日過ごしていただきます。このことを考慮していただき、ご希望の日にちはございますか? またはご都合の悪い日でも構いません」
私は予定がある人間ではないので、施術の日程ならばいつでも大丈夫だった。
「なるべく早いほうがいいです」
「なるほど。でしたら平日でも宜しいでしょうか」
「はい。それがいいです」
「では来週の月曜日、十八時からいかがでしょうか」
東京の方に行く手段を考えなければならない。電車だと何時間位かかるだろうか。どう乗り継いでいけばいいのかも調べておかなければならない。来週の月曜日までになら準備も何とかなるだろう。私はメモ用紙に日にちと時間を書き込んだ。
「はい。来週月曜の十八時からで大丈夫です。それでお願いします」
「承りました。当日は施術後外出することが出来ません。なのでお泊りになるお部屋やお食事などはすべて私共で用意させていただきます。ただ一点注意がございまして、当日は上下が離れるタイプのお洋服でいらしてください。たとえばワンピース等ですと、途中で裸になっていただかなければならなくなってしまいますので、お願い致します」
私は普段からシャツとパンツ、寒ければその上からカーディガンやコートを着るタイプなので、ワンピースを着た覚えがあるのはもう遠い昔だ。なのでこのことは特記事項にはならず、メモに残す必要はない。
「それから、いらしていただく場所についてですが、東京の目白駅に到着しましたら、写真を撮る際に使用していたマップを詳細なものに切り替えて下さい。そう致しますと緑色の目印が表示されますので、そこが待ち合わせ場所になります」
東京の目白駅、どこかわからないので電話が終わったら検索しなければとメモを残す。
「以上が私共からお伝えしたかったことになりますが、あげはちょうさんからお訊きになっておきたいことはございますか?」
どうだろう、なにかあるかなと少し考えてみたが特になにも思い浮かばなかった。
「いえ、大丈夫です」
「かしこまりました」
そして少しの間沈黙があり、これで終わりなのかなと思った所でスマホからまた彼女の声が聞こえた。
「あげはちょうさん、今回は本当にお疲れ様でした。あげはちょうさんは社会的に素晴らしいことを成し遂げて下さいました。そのことに私共は大変感謝をしております。ですので今度は私共が、あげはちょうさんにぜひご満足いただけるタトゥーを施術できるよう、万全の体勢を整えてお待ちしております。当日お会いできることを楽しみにしておりますので宜しくお願い致します。それでは以上になります。お電話失礼致しました」
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