揚羽_6

「他に質問はございますか?」

 親の承諾書。サイトやアカウント入力時に特に記載がなかったので、恐らく必要がないだろうと勝手に考えているが、ここはきちんと訊いておくべきだろうか。しかし、既に一枚画像を送っているのだ。今更、親の承諾書がないと施術することは出来ませんと断られても困る。なのでこのまま黙っておき、いざ施術してもらう時に年齢を訊かれたら、サバを読んで誤魔化してしまえばいい気がする。ならば今の段階で自分からわざわざ持ち出すべき話題ではない。この質問は却下して、次に考えていたことを口にする。

「タトゥーのデザインに関してなんですけど、あの……私が自分で考えて描いたものでも、彫っていただけるのでしょうか?」

「あげはちょうさん自身がデザインしたものを入れる、ということでしょうか」

「はい。そうですね」

「なるほど。それは可能ですよ。ただ、アーティストの方で多少線を整えたり、より適した形に修正する場合もございますが」

「あっ、そんな感じでも大丈夫です」

「サイトの写真はご覧になられましたか? あげはちょうさんと同じように、クライアントの中にはご自身でお考えになったデザインで私共に頼む案件もございます。サイトにはそのようにして施されたタトゥーも載せてあるんですよ」

「そうなんですね」

「はい。ちなにみ、そのデザインは完成しておりますか?」

「いえ、まだ完全には。もう少し手を加えたいと思っていて」

 電話をしながら、モニタに目を向けた。ペイントソフトのキャンバスに、まだ未完成のアゲハ蝶を表示させる。大体の形は出来上がっている。あとは細部を見直す程度だ。

「ではそのデザインにつきましては、三枚目の写真をお送りいただいた後に詳しく伺わせていただきます。他にもお訊きしたいことはございますか?」

 三枚目の写真を送り終える頃には、アゲハ蝶も完成しているはずだ。

 次の質問、そうだ、写真の事がある。

「昨日お送りした写真なんですけど、あれって、削除しても大丈夫なんですか?」

「あげはちょうさんのスマホからですか? ええ、私共が既に受け取ったものでしたら、削除してしてまっても構いませんよ。私共には一枚だけ、はっきりと状況のわかる写真させ送っていただければ大丈夫ですので。それに、そうですよね。いつまでも残しておくのは、気持ち悪いですものね。とはいえ、送信ミスがあった時などの為に、現場で削除するのではなく、私共の確認が取れてからの方が良いかもしれませんが。まあ、その辺りはあげはちょうさんの自由にしてく下さって結構です。こんな写真、一秒でも残しておきたくないと思ったらすぐに削除しても良いですし、もし仮に、削除後に送信ミスに気付いた場合は、もう一枚、別の人で撮ってもらっても大丈夫ですから。最低三枚の写真を私共が受け取れればよく、その人数に上限は設けていませんから」

 上限がないなら、何人だって構わないと、彼女は軽く言う。私はその言葉を聞いて、冗談じゃないと思った。余計な枚数撮影するだなんて、考えるのも嫌だ。

「他にお訊きしたことはございますか?」

 私は少し考えてから、いえ、ないですと返事を返した。たぶん訊きたかったのはこれくらいだ。二枚目の写真を送った後でも、確認の連絡をくれるようだから、新しく訊きたいことが出たら、その時に尋ねればいいだろう。

 このあたりで電話も終わりかな思っていると、薄い笑い声が耳の奥に届いた。私は瞬間、筆で首筋を撫でられたかのように、体がぶるりと震えた。

「なにか……おかしいですか?」

 スマホの向こうにいる彼女に、私は思わず尋ねてしまった。

 沈黙した間が少しあった後、彼女からもう一度軽く微笑んだような声が聞こえた。

「いえ、もし不愉快に聞こえてしまったのなら、謝ります。ただ、あげはちょうさんは芯が強く、割り切りがきちんと出来る方なのだなと、頼もしく思いまして」

「よくわかりませんけど」

 私は思ったままを口に出していた。

「いえ……あげはちょうさんは、お送りいただいた写真に映っていた男、つまり私共が選定した男について、あまり関心がないのだなと思いましたので」

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