ヒーロー(について)インタビュー ②
「あ、
マキさんの朗らかな声に、僕は慌ててショップのテントに走った。
イバライガーのグッズを並べたテントの下で、マキさんがひとりで店番しているところに駆けつけて、僕はまず頭を下げる。
「すいません、遅くなりました」
「いいよー、まだお客さん来てないし。
ちゃんと休憩取れた?」
「はい、大丈夫です」
うなずいて言うと、マキさんはまじまじと僕の顔を見つめた。
平常通りのつもりでいた僕は、じっと見上げてくる視線にうろたえる。
「あの、マキさん?」
「龍生くん、ちょっと目、赤くなってない?」
言われて、僕は焦って両手で目をこする。
慌てる僕の様子をマキさんが心配そうに見つめてくるので更に焦る。
「大丈夫? やっぱり何かあった?」
「何もないです! 大丈夫です!」
言えば言うほど何かあった感が出てしまうのだが、マキさんは心配そうにしつつもそれ以上ツッコまないでくれた。
「そう? 何かあったら相談してね?
じゃあ、後半は一緒に店番お願いね」
「はい、がんばります」
僕は力強く言ってテントに入った。
並んで店番に立ちながら、マキさんが聞いてくる。
「控えのテントの方で見なかったけど、龍生くんどこで休憩取ってたの?」
「ああ、駐車場の方に行ってました」
「ええー、あんな日陰のないところで休憩できた?
熱中症になっちゃうよー」
「あはは……そうですよね、気をつけます。
あ……そういえば、駐車場でイバライガーのファンの人に話しかけられました」
「そうなんだ?」
「それで、マキさんって、震災のときはもうここのスタッフでした?」
「ううん、そのときはまだ。どうして?」
「いえ、そのファンの人が、避難所にイバライガーが来てくれたって話をしてくれて」
僕がそう言うと、マキさんは納得した様子でうなずいた。
「ああ、なるほどね。
そのときはまだあたしはスタッフじゃなかったけど、震災のときのことはいろいろ聞いてるよ」
「何か、大変な状況だったのに、ボランティアで活動続けてたって……」
「うん、自分たちだって被災者だったのにね。
ヒーローに会いたくても会いに来れない人たちのところには、自分たちの方から行ってあげなきゃいけないんだってね。
それがヒーローだから、呼べば来てくれるのがイバライガーだから」
その信念を、自分たちが困難な状況にあっても貫いていたんだ。
マキさんは言う。
「早朝からスタンドに並んでガソリン入れてもらってね。
スポンサーさんのとこでお願いして、余ってるティッシュとかジュースとか分けてもらって、それ持って避難所で配って回って。
井戸水汲んで、タンクにつめて持っていってあげたりしたんだって」
「大変なことですよね……」
「しかもね、あのときってしばらく自粛ムードが続いてたじゃない?
それで、イバライガーのショーの予定も、全部キャンセルになっちゃってたの。
それって、団体としては収入ゼロってことなのよ」
「え、じゃあ……?」
「借金して、それでボランティア活動してたの。
そんな状況で、被災者のためにって、自腹切って、他のヒーローも呼んでショーをやったりして。
その話聞いてね、あたし心底思ったのよ」
しみじみと遠くを見つめて、マキさんは言った。
「この人たち、筋金入りの馬鹿なんだなぁ、て」
「ば、馬鹿……?」
「だって、そうじゃない?
あんな大変な震災のときにだよ?
自分たちだって大変なときなんだからさ、活動休止とかしてたって誰も文句言わないよ。
なのに、自分のことなんか後回しでさ。
それで儲かるわけじゃなし、逆に借金までして。
本物の馬鹿なんじゃないかって思ったわけ」
「はあ……」
「だからね」
言って、マキさんは呆気に取られる僕に笑顔を向けた。
「そんな馬鹿な人たちを、あたしが助けてあげないといけないんじゃないかって、思っちゃったの」
「マキさん……」
「あたし、もともと特撮番組とか好きで。
ミーハーだし、ローカルヒーローもチェックしてたの。
イバライガーのことも、地元だし、何よりガワがかっこいいじゃない。
ショーの内容もちゃんとしてるしで、ファンになって追っかけてたわけよ。
けど、追っかけてるうちに、この人たちはガワだけのヒーローじゃないなって見えてきて。
外も中も本気のヒーローやってるんだなって。
それで、その震災のときの話なんか聞いちゃったらさぁ、もっと応援してやらなきゃ! ってなるでしょう」
「はい、僕もそう思います」
「でしょー。
そうやってファンやってるうちに、自分も仲間に入りたいなって思っちゃって。
あたし、この人たち好きだな、こんな馬鹿好きだな、あたしも馬鹿になりたいなって」
「……ほめてるんだかけなしてるんだか」
「ほめてるよ! めっちゃほめてるよ!」
「それが、マキさんが
「うん、まあそうかな」
そう言って、マキさんは照れくさそうに笑った。
つられて、僕も笑ってしまう。
馬鹿、か。
確かにな。
マキさんの言ったことは、僕の胸にも素直に落ち着いた。
「僕も好きです」
「え?」
「僕も馬鹿好きです」
「だよね。
きっと龍生くんならわかってくれると思ってたよ」
そう言って笑うマキさんが本当にうれしそうに見えたので、僕も馬鹿みたいにうれしくなった。
いつの間にか、いやな気分のことを忘れてしまっていたくらいに。
好きつながりで、僕とマキさんはしばらく、一番好きなキャラクターとか一番好きなショーの話で大いに盛り上がったのだった。
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