第60話 悲劇の始まりは何時の時代も

 悲恋の結末は、何時の時代も悲しいものだ……

そして、悲劇の始まりは何時の時代も人の嫉妬が齎すのだ……


『二十一年前の決勝戦、それ以前に二人は出会っておりました。

当時は、ギレン法国とは戦火を交える様な関係では無かったのです。

魔法師と騎士との交流も普通に行なわれ、技術を互いに磨き競い合う関係といったものだったのです。

前法王であるギレン七世は、ゲオルグ王の御学友でも御座いましたので 』


過去へと遡る。 

悲恋の末に生まれた我が子を、抱きしめる事もできずに戦場に散った二人……


エストの母は銀翼の魔女・・・・・と謳われ、ギレン法国歴代法王をも凌駕するほどの魔力を有していた。

当時の法王はギレン七世、この王が最後の良心であった。

その後の法国は薄暗い国へと変貌する。


    ◇    ◇    ◇    ◇


 ギレン法国は魔法を主体とした戦闘国家と言える。

法王の継承はその王族三家の中から選出されていた。

人柄も当然の事だが、最も重視されたのは魔力量である。

自身の魔力量が多いに越した事は無いが、そう上手く事は少ない。

従って、魔力量の多い王妃を娶れば良いと、時代と共に変わって行ったのは必然である。

それでも、ギレン七世までは良かったのだが、七世の嫡男の魔力は凡庸であり、特筆した物を持ってはいなかった。

幼少の頃は、その様な事を気にする事も無く健やかに育ったのだが、十五歳になる頃には周りの対応に変化が訪れた。


他家に優秀な男子が誕生したのだ。

ギレン七世は未だ若く、従って他家の男子に次期法王の座を譲る事も、年齢的にも継承権的にも問題は無かったのだ。


彼は焦燥した、周りの掌返しに心をズタズタに傷つけられた。

「今までは…… 自分が後継者であったから、皆が優しかったんだ! 

全てが…… 唯の幻想か 」

元は素直で実直な少年であったのだが、余りの環境の変化に心が耐えられなかったのだ。周りに居た友人達は、本心では見下していたのだから当然の結果である。

「あいつは魔力は平凡なくせに、将来は安泰だと思い傅いて来たのに! 

今更…… ふざけるな! 法王の目が消えただと! 

唯の骨折り損ではないか!!! 」

と悪意を心に潜ませた者達ばかりだったのだ。


 次第に心の闇が大きくなる。

そんな時、彼の耳に英雄の話が聞こえてきた。

銀色の髪を棚引かせ、膨大な魔力と卓越した技術を持った魔法師。

銀翼の魔女・・・・・を語る、吟遊詩人の歌声が。

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