第4話 しろくまさん?

 



 さてさて、そんな訳でリディアさんに面倒を見てもらえることになりまして、無事に街の中までやってまいりました。


 いやぁ、すごいよファンタジー。特にこの街の外壁はもの凄かった。


 東京のコンクリジャングルで見慣れてるはずなのに、あの壁にはそんな建造物には存在しない圧倒的な威圧感があったね。

 なんだろう、えーっと.....そう、圧、圧が全く違うね。さすが街を護ってるだけはある!


 ......ごめん、語彙力が乏しくてうまく感動が説明できない。


 それにしても街並みは完全に日本人が想像したまんまのファンタジーだ。中世ヨーロッパとかに近い感じのやつ。 

 ただ、すれ違う人の格好が此処を異世界だって猛烈に主張してくる。


 普通の人間じゃ持てないんじゃね? ってくらいのドデカイ槍やら剣やら盾やら背負った人達とか、大きな杖を持った魔法使いっぽい女の人。他にも全身鎧のガッチャガッチャした人なんかともすれ違った。


 格好いいなぁ、ファンタジー装備。


 あ、そうそう、『魔法使いっぽい格好』ってので思い出した。

 街に来る途中でリディアさんに聞いたんだけどやっぱり魔法はあるんだってさ。


 けど魔法があるんなら私の『ユニークスキル』なんて地味だし使っても大丈夫なんじゃないの?

 だって触ってる物が砂になるだけだよ?

 火とか氷とかをばんばん飛ばして爆発したりするわけじゃないんだよ?


 そう.......言ってみたんだけどさ。

 逆に派手じゃないからマズいって言われてしまった。


 魔法ってね、使うと魔法陣が浮き上がって、起動の時には周囲の魔力が跳ね上がるから使うとモロバレするんだってさ。

 だから威力が高い代わりに対策もとられやすい......と。


 ならリディアさんの飛ばした斬撃は? あれ、魔法陣でてなかったけど。

 って言ったら、アレね......スキルなんだってさ。威力が低い代わりに体力を消耗して使えるらしい。色々出したり現象を起こしたりは出来るけど、砂に変えたりっていう変質は、超上級魔法なら出来るけどスキルじゃ出来ないらしい。


 私のこの砂がサラサラなるのが超上級魔法と同等? 笑っちゃうよね。


 まぁ、そうは言っても私の『エナジードレイン』。概要だけまとめると...だ。


  ・派手さ『なし』


  ・体力消耗『なし』


  ・変質『あり』


 つまり、何も消耗しない、しかも使うまでバレない超上級魔法(笑).......。

 リディアさん曰く、私のコレは暗殺にはもってこいの能力で、裏の業界からは引く手数多の大人気なんだそうな。


 ちくしょう......。


 結局、私のコレは人前で安々と使えるもんじゃないって事が決定しちゃったよ。


 けどまぁ、リディアさんの所で面倒見てくれるって事になったからね。ゴハンは食べられるだろうからエナジードレインが使えなくても魔力の枯渇はなんとかなりそうだ。いざとなったらスキル使ってこっそり魔力回復すれば良いよね。

 

 あー......それにしても。ゴハンといえばさーさっきからさ露店が並んでるんだけども、むっちゃくちゃ美味しそうな匂いがしててたまらないんだわ。

 特に焼き鳥屋っぽい感じで肉を焼いてる店なんかは、キンキンに冷えたビール片手に食べ歩きしたくなる。


  --じゅるり

 

「メイ、食い物の露天が気になるんだろうが、みとれて逸れないようにな」


「う、うんっ」



 どうやら知らず知らずのうちにキョロキョロしてたみたいだね。おのぼりさんみたいでちょっと恥ずかしい。

 そしたらリディアさんが優しくそっと手を差し出してきた。これはアレか? 迷子にならないように手を繋げって事か。


 だが断るっ!


 あ、いや、迷子にならないから大丈夫です。

 なんかこの歳で手を繋いで歩くのは何と言いますか、気恥ずかしいと言うか......。あ、ちょっとまって、私が繋ぐのを躊躇ったからって強引に手を取るのは如何なものかと。


 ぬあー......。

 リディアさんのお手々、ゴツゴツしてるけどしっとりしててヌクヌクだ。


 うぅ......確かに見た目は子供だけどさー......中身は違うんだ、本当は子供じゃないんだ。


 でもなんでだろう、気恥ずかしいけど悪い気はしないかな。

 リディアさんが凄く美人だから緊張するけど、心がちょっとホカホカする。


 まぁ、たまには子供っぽいのも良っか。



 んで、そんな感じで、リディアさんに手を引かれて辿り着いたのは。

 ......冒険者ギルド!?


 お..おお。

 ファンタジー小説の定番が来たっ!!!


 なんか街の入り口にある支部の方らしいけどそれでも凄い。


 わっ、わっ、見て見てっ。

 リティアさんにくっついてギルドの中に入ったんだけど、壁の掲示板に依頼が貼られてるっ!

 それにバーみたいな場所があって、ちゃんとガラの悪そうなおっさん達がお酒飲んで騒いでる!!


 凄いっ、凄いっ!


 小説まんまの冒険者ギルドだっ。


 それで、正面にあるのが受付なのかな?

 リディアさんみたいに凛とした美人とは対象的な、ふわっとした雰囲気の美人さんが座ってるけど。


 あっ、ゆるふわお姉さんがこっちに気づいた。



「お久しぶりですリディア様、本日はどの様なご用件でしょうか?」


「ああ、久しぶりだなミリア。今日はギルドマスターに会いに来たんだがこっちに居られるか?」


「はい、いらっしゃいますよ。訪問を伝えてまいりますので、少々お待ち下さいね」



 そんな感じの会話をリディアさんとすると、受付のお姉さんが奥の扉に引っ込んで行った。

 それから暫くギルドの中を堪能してると、受付のお姉さんが帰って来て奥の部屋に通された。


 ギルドマスターに会いに来たって言ってたし、今から会えるのかな?

 ちょっと楽しみかも。



  ◆ ◇



 で、でけぇ......。


 通された部屋で大人しく座って待ってると、ギルドマスターと思われる物体が入って来たわけなんだが。


 あのー......身長、3メートルくらいあるんじゃないですかね?

 全身筋肉だらけで、白い髭を生やした巨体があらわれた。まるでシロクマみたいだ。


 見てよあの腕、私の胴回りより太いんだけどどうなってんの?

 多分撫でられただけで私の上半身は吹っ飛んで消滅する。


 こんな人に怒られたら迫力だけで心停止する自信があるぞ......まぁアンデッドだから心臓は止まったままなんだけども。


  --よしっ


 余計なことを言って機嫌を損なわせないように、ここは隅っこで静かに気配を消して話を聞いてよう。


  --え? ビビリ?


 ははは、何とでも言いたまえ。


 えー......それで静かに横で話を聞いてるワケなんですが、二人が何の話をしてるかって言うと。此処に私を連れてきた時点で私の話に決まってるヨネー、やっぱり。


 おかげで目立たないようにしてるのにギルドマスターがこっちの方をガン見してくるんだけど。こわい。


 それで、そんな二人がいったいどんな話をしてるかって言うと。


 えー......私が『ユニークスキル』を使ったから保護した。このままスラムに帰すと危険だから面倒を見る。だからリディアさんを後ろ盾に冒険者登録をさせて欲しい......と。


 まじか...。私、冒険者デビューできるの? もの凄く面白そうなんだけど!!


 やっぱり異世界モノだと、いきなり飛び級でランクアップして注目浴びたり、新人いじめを撃退したりするイベントがあったりするのかな?

 あー、でもなぁ。スキル使っちゃ駄目って言われちゃったから、絡まれても撃退は無理かも。危険なイベントは回避すべきかもしれんね。


 だけど、やっぱり異世界で冒険者になったからには、いつか有名になってカッコイイ二つ名とか欲しいなぁ。



「それで嬢ちゃん、名前は?」



 私が脳内で華々しい冒険者生活について妄想してると、不意打ちでギルドマスターから話しかけられた。



「うぇっ! あっ、えっと、『メイ』です」


「メイか...。それでコイツ...リディアが後ろ盾になるっつー話なんだがな。ちゃんと冒険者できるか?」


「はっ、はいっ! やりたいですっ」


「そうかわかった、ただな...後ろ盾になるっつー事は、嬢ちゃんが悪さしたら尻拭いをリディアがするっつー事なんだ。勝手に街を抜け出したり悪い事には手を出さず、いい子に冒険者できるか?」


「はいっ!」


「よし、それなら信じてやる。期待にこたえろよ」



 そう言うと、でっかい手が私の頭に覆いかぶさってきた。


  --ヒィッ


 びっ、ビビった...。

 頭をねじ切られるのかと思った。


 どうやらギルドマスターは私の頭を撫でてるつもりらしい。力が強すぎて頭が押さえつけられてるような感じになっちゃってるけど...。ぬああー......。


 手が左右に動く度、視界がぐりんぐりん動いて...。うっぷ...酔ってきた。


  --ぅあー......


 そろそろやめてー、脳みそがシェイクされてトロけちゃうからー。



「それじゃあリディア、儂からは話しをつけておくが.......。やるならしっかりと責任を持てよ?」


「ありがとうございます。勿論、この剣にかけても自ら決めた事に責任をもちますよ」


「そうじゃったな、お主はそういうヤツじゃった」



 そう言ってギルドマスターとリディアさんはお互いに微笑み合うと、ガシッと握手をしてから席を立った。

 そしてそのまま受付で私の冒険者登録を済ませると、リディアさんが『装備を整えに行くぞ』と言って手を繋いできたので、再び街へと繰り出すこととなった。


 それにしてもこの辺り食べ物の露天が多いなぁ。


 来るときも思ったけど、ホントお酒が欲しくなるような焼き鳥やらオデンみたいな料理がずらりと並んでる。


 でもお酒は売ってないんだよねー、こんなの売ってたらお酒が欲しくなると思うんだけど。それに、露店は屋台みたいに食べるタイプじゃなくて持ち帰るタイプなんだけど、みんな家に持って帰って食べてるのかな?


 .......って、疑問に思ったんたけど理由がわかった。なるほど......これはトラップだわ。


 食べ物の露天を通り抜けた所に、地面に椅子だけ並べたお酒の屋台やら酒場の店が大量に並んでる。


 こんなの絶対飲むに決まってるよね?

 抗える人なんて存在するの?


 気をつけないと....今の私は見た目が子供だから、釣られてフラフラっと買いに行っちゃう色々トラブルになりそうだ。



 さてさて、そんな酔っ払いで賑わう酒場の隙間をリディアさんに連れられて通り抜けると、裏路地っぽいゴチャゴチャと箱が積まれた道に入っていく。


 さっきまで響いていた酔っ払い達の喧騒は遠のき、こっちは随分と静かな様子だ。


 そして、こっちはこっちでまたしても誘惑されそうなお店が並んでる。これは、手を繋がれてなかったら確実に足止めをくらってただろうなぁ。


 だってほら、あれ、絶対ポーションだよポーション!

 あっちには魔導書っぽいのとか売ってるし、ファンタジックな物がこう沢山並んでたら一歩も進めないよ!?


 わっ、わっ、水晶の上で魔法陣が浮いてるんだけど、なにあれなにあれもしかして魔道具!?

 どうしよう、もっと色々見てまわりたい......。


  --うずうず


    --うずうず


「メイ、店は後でな」


「う、うん」



 やばい、注意されてしまった。こんなん注意されるのいつ以来だ?

まさかこの歳になって注意されるとは...。何だかちょっと気恥ずかしい...。


 うん、今は大人しくしてよう、『店は後で』って言ってたし。きっと後で連れてきてくれるはず。 


  --テクテク


   --テクテク


  --テクテク


 出来るだけ周囲を見ないように、リディアさんの方を見ながら歩いていく。見たら絶対気になって立ち止まっちゃうからね。


 んんー......?


 でも何だか裏路地からさらに裏路地に入って、ちらほらあった人通りも無くなって、もはや人の気配すら感じないんだけどもいったい何処に行くんだろう?

 いや、店っぽいものは一応チラホラ見かけるんだけど、看板も出てないし売り物も表に陳列されてないし、ただ店っぽい雰囲気の入り口と扉があるだけなんだけど。しかも凄く高級店っぽい。

 なんせ、さっきまで全然見かけなかった硝子窓やステンドグラスのランプなんかが建物の外装をキラキラと飾ってる。なのに下品な感じが全くない、オシャレ感が半端ない。



「んん?」


  --あれ?


 たしか、私の装備を整えるとか言ってなかったっけ?

 え? こんないかにも高そうな店に行く気なの?


 いやいやいやいや。

 待って待ってちょっと待って、リディアさんその店明らかに一見さんお断りみたいな外見してるんだけど。

 ああっ!! なんの戸惑いもなく扉に手をかけて中に入っていってしまった......。


 えー......。

 ここに入るの?


 私、日本でもこんな高級な店とか入った事無いよ?


 そんな感じで入るのを躊躇って立ち竦んでると、リディアさんが店の中から戻ってきた。



「メイ、どうしたんだ?」


「えっ、えっと...」


「ほら、入るぞ」



 ちょっ、ちょっとまって、まだ心の準備が!!

 ああっ!!


   --カララン


 ドアベルが鳴るなか、私は手を引かれて強制入店させられてしまった。

 そして店内を見渡すと、店の中にはとってもファンタジーな世界が広がっていた。

 


 

 

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