第2話 メニューさん
私の視界の端で、フヨフヨと自己主張の激しい何かが浮かんでいるわけだが。
-->『メニュー』
「あっ、はいっ......」
えーっと、これ、触ればいいの?
よくわかんないし取り敢えず浮いてる文字に触れてみる。
「うおっ! 開いたっ!!」
えーっとなになに。
・スキル
・ステータス
・インベントリ
・オプション
うん。
ゲームだこれ。
さてと、どうするかねぇ...。
正直ホントにこんなのが出てくるとは思わなかったから、実際出てこられると驚きで心臓バクバクなんですが。
--え? ホントに異世界に居るの私?
ま、まぁいいや。いや、良くないけど。こうしてても仕方がないしもう良いや。
うん、そろそろこの状況を受け入れよう。
そうなると、この浮いてる文字達は絶対に無視できないよねぇ。
そうだなぁ、見るならやっぱり『ステータス』からかな。
「ポチッとなっ」
- - - - -
『名前』
如月 命 (きらさぎ めい)
『種族』
アンデッド
『状態』
腐敗
『生命力』
0
『魔力』
1/∞
- - - - -
えっと、思ってたより項目がシンプルなんだけど、力とか敏捷とかそういったものは無いのか。
......。
いや、まぁ、それはいい。
それはいいんだけども、でも生命力0って...。0って!?
「ああいや、『種族』がアンデッドになってるからこれが当たり前?......なのかな?
って言うかさ、やっぱりアンデッドなのね......私」
--まぁ、分かってたけど
それより、状態のところにある『腐敗』って何よ!?
もの凄く気になるんだけど!!
「うおおっ」
そう思った瞬間、新しいウインドウが開いて目の前に飛び出してきた。び、びっくりした。
んーむ、どうやらこのウインドウには腐敗の説明が書かれてるっぽい。
なんだ、触らなくても操作できるんか......ちょっと損した気分。
「えーっと...なになに」
- - - - -
『腐敗』
アンデッドの状態異常の一種。
魔力が減ると腐敗が進行し、身体の耐久力が低下する。
魔力が低くなるほど身体の欠損が増えて行き、0になると土に還る。
魔力が一定値を超えるとこの状態異常は消失する。
- - - - -
......は?
えーっと、私の魔力は......。
「あかーーーーん!!」
ど、どどどどどどっどうしよう!!
魔力1だよ私!! 土に還る!! 土に還っちゃうよっ!!
ええと、落ち着け。落ち着け私、今は焦っても状況は改善しないぞー。
ひっひっふー。ひっひっふー......。
よし落ち着いた。
まずは魔力について調べないと。
っと、やっぱり出たか。
見たいって思うだけで情報が表示されるみたいだ。いきなり出てくるからちょっと慣れない。
まぁ今はそれより魔力に関してだ。えーっと、どれどれ......。
- - - - -
『魔力』
主に魔法を使うのに必要とするもの。
0になると精神に負荷がかかり意識を失う。
時間やアイテム、一部スキルにより回復する事ができる。
- - - - -
よしっ、アイテムかスキルで回復だなっ! 把握したっ!!
んーっと、アイテムと言えばあれだ。
「インベントリ!!」
よーっし開いた、それじゃあ中身は......?
ぬああああっ、空だぁぁぁぁっ。
当たり前だけどっ、当たり前なんだけどっ、ちょっとだけ何か入ってるんじゃないかなって期待してた。
まぁ無いものは仕方がない、次だ次っ!
次は、えーっと、そうだっ!
オプションなら何か魔力関係を緩和できる設定とか、状態異常のオン・オフ機能とか、なんかそう言った感じの設定があるかもしれない!!
って事でオプション様、お願いしますっ!
「オプション!」
- - - - -
BGM
ON 【OFF】
- - - - -
「いらーーーーんっ!!」
何だよこのゴミ機能!! BGMなんて自分で歌うわっ!
せめて難易度変更くらいは付けといて欲しかった!!
こんな現実、ハードーモードすぎるよぅ。
くっそ、こうなると、もう『スキル』しか頼みの綱がないぞ。
「たのむぞー......スキル!!」
- - - - -
『スキル』
・エナジードレイン
- - - - -
えっ...。
1つだけ?
しょぼくない?
い...いや、今はそれでもいいや、問題は魔力が回復できるのかどうかだ!
名前的には吸い取って回復するタイプっぽいけど......。
- - - - -
『エナジードレイン』
触れたものの全てのエネルギーを吸収し取り込む事ができる。
対象の抵抗値によって一度に吸い取れる量が上下する。
- - - - -
うん、魔力が回復するかどうかは書いてないけど、取り込むって書いてあるし...試してみれば良いや。
っていうか、もうこれで駄目だったら完全に詰む。土に還っちゃう。
えっと...これって、そこら辺に生えてる木でもいけるのかな。
抵抗値とかって文字が気になるけど、そんなの考えてる暇は無い。兎に角まずはやってみよう。
--ペトッ
「えーっと......」
試しに近くにあったでっかい木に触ってみたけど、此処からいったいどうすれば良いんだろう?
んー......取り敢えずスキル名でも言っとくか。
「エナジードレイン! ...んをぉっ!!」
--ペキ
--ペキペキペキ
木が、触れた場所から砂になって崩れて行く。
何これ凄い。
--ザザッ
「ぬぁっととととっ」
木に見入ってたら今度は足元がいきなり砂になって盛大にバランスを崩してしまった。
そ、そうか......足元も一応『触れてる』判定だから吸っちゃってるのか。
何とか耐えてコケなかったけど、このスキルちょっと使い勝手悪くない?
「ん?」
あれ?
でも服は『触れてる』のに無事なんだけど、服からは吸わないのかな?
これ、いったいどうなってんだろ。
......。
あっ、いや、別に服が消し飛んで欲しいわけじゃないからねっ!?
ただでさえ防御力が低そうな服なのに、これが無くなったら完全に痴女だよ私っ!!
んー、しっかし要検証だなぁこのスキル。色々と説明に書かれてない法則性とかありそうだ。
服の件もそうだけど、吸った物が砂になるとかってのも書かれてないし、それに抵抗値ってなんぞ?
んーむ、私の中のゲーム脳が疼く......。
--ベキッ
「へっ?」
なんだ......今の音。
「あっ......」
まっ、まずいっ、スキル使いっぱだった!
完全に考え事してて忘れてた。
触ってる木の根元が砂になって、上の方がこっちに向かって倒れて来てるっ!!
ヤバッ。避けないと潰されるっ......。
--ザッ
「ちょっ、すっ、砂ぁぁぁっ!」
砂に足が沈んで動けない!
まさか自分のスキルで作り出した砂場に足をとられるとか、ちょっと待って笑えない、笑えないからっ!?
一歩、一歩だけ横にズレれば避けられる、避けられるのぉぉぉぉっ。
「ぬああああっ! 避けられないぃ!!」
あっ...。これ...駄目なやつだ。
もう視界を覆い隠す距離まで木が迫ってる。
し、死んだ...。
--バシュッ
「......」
と、思ったんだけど......。目前で木が砂に変わって私の上に降り注いできた。
あー...これ、頭に『触れた』から砂になったのか。
--サラサラサラ......
「たっ...助かったー......」
なんか手で吸ってた時より一気に砂になったのかは気になるけど、助かったから別にいいや。今は検証なんてしてる気分じゃない。
それより、頭から砂をひっかぶった事の方が問題だ。
--ケホッ
--ケホッ
「じゃりじゃりする...」
叫んでたからモロに砂が口の中に入っちゃったし。
うぅ......口の中いっぱいに砂の味がするよぅ......。
......。
--サラサラサラサラ
ん? あれっ? ちょっ、ちょっと待って。
これいつまでスキルの効果続くのっ!?
足元の砂場がゆっくりと広がっていってるんだけど。
ど、どうしよう、このままだと此処ら一帯が砂になっちゃう。
「ちょっ、ちょっと待って、ストップ ストーーーープッ!!」
--サラ
--サラサラ...
「と、止まった?」
止まったよね?
--ほっ
「良かったぁ...」
どうやら私が止めようとするまでこのスキル発動しっぱなしみたいだ、なんて使い勝手の悪いスキルなんだっ!
......今度からは気をつけよう。
これ、止め忘れたら大惨事ってレベルじゃないし。
--あっ
「そうだ ステータス!!」
- - - - -
『名前』
如月 命 (きらさぎ めい)
『状態』
『生命力』
0
『魔力』
200/∞
- - - - -
「おっ?」
おおおおおおおっ!!
『腐敗』が消えてる!!
ほんとだっ、腐って筋繊維丸出しだった場所が綺麗になってる!!
もしかして腕も......繋がってる!!
--ピッ
『魔力』
199/ ∞
「えっ?」
減った!?
おかしい、さっきまで魔力200あったよねっ!?
も、もしかしてこれ、ゆっくり減っていくもんなの?
そっ、そんなぁ......時間で減るとか、ちょっとハードモードすぎやしませんかね?
減り加減によっては定期的に自然を破壊してまわらなきゃなんないじゃないか。
これはちょっと減りの早さを確かめないと駄目だね。気がついたら腐って朽ちてたとか洒落にならないし。
--ジー......
......。
...。
んむむぅ...。5分くらい眺めてるけど、あれから減る気配が全く無いぞ。
そんなに早い勢いで減るもんじゃないのかー?
んー.......これだけ魔力があれば取り合えずの所は一安心、なのかなぁ...?
5分はもつとして、魔力200で1000分かー。大体20時間くらいかな?
それだけもつならずっと見てなくても大丈夫か。
ちょっとだけ不安だけど此処でずっとこうしてるワケにもいかないし、減る時間の検証はまた今度にしよう。
それに、いざとなればまた木から吸い取ればいいよね、いっぱい生えてるし。ちょっとくらい自然破壊しても許されるだろう。
--ぐぅぅ
「はぁ、お腹減ったなぁ...」
なんだろう、死んでるのにお腹が減るって言うこの矛盾。私、アンデッドなのにお腹減って良いの?
いや、まぁ、ゾンビって人肉食べてるイメージはあるけども...。
仕方ない、何か食べるかー。あ、人肉以外でね...。
......。
けどなー...。
目線の先には広がる森林。後ろを向いて見ても広がる森林。
私、サバイバルとか全くしたことないんだけど、食べ物ってどうやって見つけたら良いのん?
◆ ◇ ◆ ◇
「ふんふんふぅ~ん」
食べ物に悩んだのも一瞬の出来事だった。
私は今、真っ赤な木の実を拾いながら森の中を軽快なスキップで移動している。
まさかこんなにいっぱい森の恵みが落ちていようとは。サバイバル? 楽勝ではないかっ!? はっはっは!!
これは、思わず鼻からBGMが垂れ流しになってしまうのも仕方があるまい。
「ふふんふふ~ん」
ひょい。
--パクッ
んぐんぐ...。
この木の実、ちょっとピリピリするけど甘酸っぱくてとっても美味しい。
このピリピリのおかげで後味も妙にスッキリしているし、これはとってもクセになる。
んぐんぐんぐ...。
「おっ?」
何となくステータスを開いてみると、魔力が203まで回復していた。
どうやら何か食べても回復するみたいだ。
なんだ、最初はあんなに焦ってたけど案外余裕かもしれないぞこれは。
「ふんふんふ~ん」
私は鼻歌(BGM)を垂れ流しながら、次々に赤い木の実を集めていく。
これくらいあればしばらくは大丈夫だろう。
「おい、お前!!」
「うひぃっ!」
集めた木の実を眺めてニヨニヨしてると、いきなり後ろから声をかけられた。
それに驚いて、思わず口から変な声が漏れちゃった。
びっくりして木の実をぶち撒けなかった事だけは褒めてもらいたい。
慌てて声のした方に振り返ると、鎧姿のものすっごい美人が此方に向かって歩いて来ていた。
思わず一歩後ずさる。
鎧姿の美人、すごい迫力。
「ああ、いや。恐がらなくて大丈夫だ」
いや、そう言われましても...。知らない人間が腰に刃物引っ下げて近づいて来たら普通はビビるだろう......。
もしかして異世界では違うのだろうか?
「此処は今ちょっと危険だからな、それで声を......って、おいっ」
「ぅえ?」
「その手に持ってる実はどうした?、
もしかして食べたのかっ!?」
「えっ、う? ちょっとだけ食べちゃたけど......」
えっ、何!?
まさかこの木の実、食べちゃ駄目だった?
「本当かっ!!
かっ、身体は大丈夫かっ?」
「え?」
てっきり怒られるのかと思ったら、何故か心配そうに駆け寄ってきたんだが?
ちょっとまって状況が良くわかんない。まずは説明ぷりーず!
「その実は強力なしびれ毒があるんだぞ!」
「どく?」
えっ?
痺れ毒ってなんぞ?
えっ??
なんか凄いことを聞いた気がするけど、内容の衝撃が強すぎて飲み込めない。
ごめん、ちょっとまって。今飲み込むから...。
......。
...。
えーっと...。
「どくぅっ!?」
えっ、これっ、食べたら駄目なヤツじゃん!?
うえええぇぇっ、食べちゃったぞ!! 私、これ食べちゃったぞ!!
「大丈夫だ落ち着け。そうだな、手足はちゃんと動くか?」
「う、うん」
--ニギニギ
「...どうやら大丈夫そうだな。結構強力な毒のはずなんだが、もしかして耐性スキルを持ってるのか...?
いやしかし......。そうだな、いくらスキルがあったとしても毒が完全に中和されるとは限らない、解毒薬は飲んでおいた方が良いか......」
「え...えっと」
--耐性スキル?
スキルリストの中にはエナジードレインしかないんだけど。
今、片っ端からステータスとかスキルのウィンドウ開いてるけどそれっぽいものは......。
......あっ!!
- - - - -
『種族』
アンデッド
魂を魔力で現世に縛り付けることで永遠を手にした種族。
自らを維持するための『魔力を入手する手段』や『外見』により様々な種類に分類される事もあるが、種族としてはこれ単一でしか存在しない。
※共通特性
状態異常に高い耐性を保有する
暗い場所でも通常の視界が確保できる
魔力を使って身体の傷や欠損を自動的に修復する
魔力を得るスキルを必ず何か1つは所有する
魔力が尽きると朽ちて土に還る
- - - - -
種族説明のところに耐性があるって書いてあったわ。成る程、これで無事だったんか。
それにしても、耐性以外にも気になる事がいろいろ書いてあるな......。
「解毒薬を持ってるから飲んでくれるか? 少し苦いかもしれんが...」
「えっ...あ、ありがとう」
私が種族説明に見入ってると、腰にさげた鞄から何やら紫色の液体が入った小瓶を取り出して手渡された。
いきなりで一瞬ビクッとしちゃったけど、恐る恐るその小瓶を両手で受取る。
えっと...この毒々しい紫色の小瓶の中身、解毒薬って言ってたっけ?
さっきも心配そうに駆け寄ってきてくれてたし、その上解毒薬までくれるし...。
このお姉さん、もしかして良い人なの?
多分アンデッドで耐性があるから毒にはかからないんだろうけど、此処で断ると心配させちゃうよね。
こんなに心配してくれる良い人を困らせるのは気がすすまない。っていう事で選択肢は『飲む』一択だねっ。
--よしっ
覚悟を決めると、蓋を開けて匂いを軽く嗅いでみる。
--スンスン
んー...無臭かぁ。匂いじゃ何にもわからない。
知らない人から貰ったものを口に入れるのはちょっと恐いんだけど...。
......。
ええい、ままよ!!
--ゴク
--ゴクッ
うげっ、苦っ!!
青臭い雑草を煮詰めたような味がする。うぇぇ......。
「それにしてもその格好......スラムの子か?
こんな場所にまで食べ物を探しにくるとは...」
いや、なんかすごい悔しそうな顔されてますが、わたしスラムの子ちがうです。
って、言いたいところなんだけれども。じゃあいったい何処から来た誰なんだって話になると困るから言えないんだよなぁ。
敢えて気にしないようにしてたけど、この体さ.......。どうもかなり若いみたいなんだよね。
超ロングの金髪になってた時点で自分の体じゃないのはわかってたけど、身長の高さからして中学生くらいなのかな?
そんな子供がボロを纏ってこんなところで木の実を抱えてりゃ、そりゃあスラムの子供にしか見えんわな。
実際は異世界からこの体に乗り移ったって感じなんだろうけど、そんな事を言い出したら確実にヤバイやつ認定される。
--うん
面倒だしスラムの子って設定で良っか。お姉さん優しいし、スラムの迷子だと分かれば悪いようにはしないだろう。
まさか助けた子供をこんな場所で『じゃあさよなら』は無いだろうしね。きっと街までは連れて行ってもらえるはずだ。
こんな何もない森で野生児なんて絶対に嫌だし。
--よしっ
スラムの子供をうまく演じて、お姉さんに街まで連れてってもらうぞぅ!
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