其の五
見られたやもしれませぬ。
この小娘、いかがしましょうか。
ただで帰すわけには参りませぬ。
いっそのこと、食ってしまいましょうか。
口を開けようとしましたら、やんわりと唇をふさがれました。
それも短い間だけ。何秒でもなかったと思います。
口腔の自由が戻りますと、意識も現実に戻されました。
わたくしは道端にしゃがみ込んでおります。
顔を背けることもかなわぬ至近距離にありますのは、彼の整った相貌。
「勇貴くん」
お名前をお呼びしますと、彼は儚げに微笑みました。
「もう大丈夫だよ」
彼の手が伸ばされ、髪に触れられます。こめかみの少々上の辺りです。
「あの子は」
「中学生の子? 楓ちゃんが具合悪そうだって教えてくれたんだ」
あの女子中学生は、道端にしゃがみ込んで動けないわたくしを助けてくれる人を探して下さり、ちょうどアパートの駐車場に着いた彼が対応して下さったそうです。
女子中学生は「体が軽くなった気がする」と首を傾げて帰っていったのだそうです。
「勇貴くん、申し訳ありません。ご迷惑をおかけしてしまいました」
「全然迷惑じゃないよ。楓ちゃんが無事で安心した」
公衆の面前だというのに、抱擁せんと腕をまわされます。
「たまには外食でもどう?」
わたくしもそれに応じて彼を抱きしめます。
「喜んで」
顔から火が噴きそうでございます。
それでも、彼から離れたくありませぬ。
わたくしは莫迦な女です。
彼が口を吸いましたのは、牙が出ていないのを確かめるため。
こめかみの少々上に触れたのは、角が出ていないのを確かめるため。
外食を提案されたのは、わたくしが人前に出ても安心だと判断されたため。
それでも、この
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