其の四

 おのすみかは誰にも明かしておりませぬ。

 もちろん、彼にも。

 人が立ち入ることなどかなわぬ山奥に在るのが一因でもありますが、誰も招いてはならぬというのが昔からのしきたりでございます。

 それなので、わたくしが彼の家にお邪魔することはありましても、逆はあり得ませぬ。

 彼氏といえど、そこは線引きを致します。

 彼は住む世界の違う存在なのですから。



 夕方になりまして、彼の家に向かっておりました。

 昼間は暑くても、日がかげれば途端に涼しくなります。

 昔の子どもの歌にもありますように、夜は“おばけ”の時間。お天道様の下でを潜めていたものが、活動を始める時間です。

 先程から、下校途中の女子中学生のそばを、怪異がついて歩いております。

 女子中学生は、学校で嫌なことがあったのでしょうか。それとも、帰宅したくないとか。あるいは学習塾に行きたくないとか。そういった負の感情が濃くなりますと、負の雰囲気を好む怪異が誘われてやってくるのでございます。

 近頃は特に、こういう怪異が多く見受けられます。

 妖怪図の餓鬼のような外見をしておりますが、鬼ではありません。

 怪異の体躯は女子中学生の腰の辺り。この手の怪異にしては大きい方でございます。

 放っておいたら何か悪さをするやもしれませぬ。



 静かに息を吸い込みます。

 矢を放つような意識を放ちますと、怪異は霧散しました。



 安堵したのもつか、女子中学生が歩を止めて振り返りました。

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