其の三
多くの嘘を重ねてまいりました。
人間のふりをして戸籍も住民票も取得しています。
公称年齢は実年齢の十二分の一です。
書類を記入するときは毎回心が痛みます。
昔から野菜を売ったり内職をして小金を稼いで参りましたが、近頃はそれでも生計が立てられず、人里でアルバイトをするのが主になっております。
アルバイトの傍ら、人に危害を加える怪異を討伐しておりまして、なかなか気が抜けない暮らしでございます。
彼と出会いましたのは、昨年の秋。怪異を追っていた最中でございました。
幼児をかばって怪異に飲み込まれそうになっていた彼を見つけ、怪異はぶった切りましてございます。
その後、人里でたまたま彼と再会しまして、鬼であることを隠しまして交際を始めました。
鬼であることは告白しましたが、彼は身を引くような御方ではございませんでした。
いつか食ってしまうやもしれませぬ、とお話ししますと、彼はこう仰いました。
――こんなまずそうな男でよければ、どうぞ食べて下さい。
彼は勇敢で優しい人間です。
そのような彼を、わたくしは身の程を忘れてしまうほど、彼を心からお慕い申しております。
叶うなら、角も牙も折り、彼と添い遂げたい……そのようなこと、叶うはずがありませんのに。
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