第九章 サラマンダー科、ジン属、ジン(3)

 それからさほど時間も立ってなかったと思う。時間にして二十分立っていないのではなかろうか。


 だが、ふとガラス窓から外を眺めると炎の空がすぐそこにまで迫っていた。高度もどんどん下がり、まるで目的地がこの空港で、建物まるごと飲み込もうとしているのではないかと思ってしまう。


 対して討伐隊は空港を離れ少し向こうに浮かぶ孤立した島に陣を構えた。


 ジンはその討伐隊が構えるすぐ先。蠢く炎の天井は確かにこの空港を目指していた。ジンが通り過ぎた所にあった浮き岩がボロボロと崩れていき、小さな物は完全に散ってはるか下にある海へと落ちていく。

 フロトプシケ・クレイズが不安定になっているのだろう。


 ふとジンの下を横切ろうとした馬ほどの大きさのドラゴンが急に体勢を崩し散っていく。討伐隊に編成された動物たちの様子も何かおかしいように見える。

 それに心なしか、俺たちのいる地面を少し震え始めている気がした。


「これがエッジワースにジン入った影響か……」


「ええ、そのようね。エネルギーが不安定ながらも均衡を保っていたこの地域に適応したフロトプシケ・クレイズ。

 でも、均衡の中にジンという巨大なエネルギーの乱入により乱れてクレイズに異常が発生、クレイズを宿していた物や生物にまで及ぼしている」


 不穏な空気がこの建物内に漂い始める。地震とも違う揺れに軽い恐怖を感じる。もし、この街がある巨大な浮遊大陸が壊れ沈めば全員の命がない。

 海面までざっと千五百メートルほどはあるののだから、想像もつかない大惨事に至るのは間違いない。


「だが、心配はなさそうだな。攻撃が始まる」


 ガオウの一言がまるで合図だったかのようにガラス窓に映る少し先の浮島から一斉にマズルフラッシュが放たれる。大量に並べられた対空装備が火を噴き始めたらしく、とどまることを知らない銃声がガラス窓を振動させ俺たちの耳にまで届く。


 放たれた弾は天井の炎へと届き、天井を大きく揺らしていく。炎の天井をから何本もの炎柱が伸び始め討伐隊を襲おうとするが忽ち撃ち落とされた。炎は討伐隊にたどり着く前に空中消滅、散っていく。


 何度も仕掛けようとするジンだったが、逆にどんどん炎の大きさが小さくなっていくだけ。攻撃開始からみるみるジンの範囲が小さくなっていった。


 だが、ジンもそう簡単に討伐されなかった。攻撃するのが無駄だと判断したのか、今度は高度を上げて上空へと逃げようとしだす。


 それに合わせて対空装備の射角を上げていき対応しようとされるも弾丸が届かない位置にまでジンに上昇され、攻撃が通らないようになった。


「よかった。逃げてくれそうだな」


 そのまま空間の外までジンが出ていってくれるのだろうと思った俺が安堵の言葉を述べた。


「そうかしら……」


 だが、サナはただそう呟き首を上げジンを見つめ続けた。それに合わせ俺もジンの観察を続ける。そして理解した。ジンは攻撃が届かない安全圏まで移動しただけで依然、空中……この上空に停止し続けているのだ。


「ほら……やっぱり逃げない」

「……あくまでとどまるのか……どうするんだ?」


 討伐隊のほうも攻撃が届かないと既にわかっているはずだ。そう思って討伐隊のほうに目を移すと隊員のうち、何人かがグリフォンに乗り始めた。


「あれ? フロトプシケ・クレイズとかいうのは異常になってて動物は飛べないんじゃ」

「いや、あれはフロトプシケ・フロトプシケ。つまり、この地域以外のグリフォンね。もちろん、あのグリフォンはそもそもこの空間に耐性がないけど、少しの間なら飛行活動できる。レクスが子供ながらも問題なく動けるようにね。

 今の状況ならまったく飛べないエッジワースの動物よりはまだそっちのほうが使えるってわけ」


 グリフォンの飛行討伐隊が一斉に浮島から飛び立つ。それは一直線に上空へと逃げたジンに向かっていく。


 向かってくるグリフォンを落とさんとするジンの炎攻撃。すべてのグリフォン隊はそれをなぞるように螺旋を描きながら旋回し突き進む。

 もう、かなり遠くになるため俺の目でははっきりと捉えきれないが、おそらく手に銃を持ちだし、一斉に発砲し始めた。


 さすがに逃げきれないジン。グリフォン隊による怒涛の攻撃がどんどん炎の天井に突き刺さり、炎の膜を薄めていく。

 炎が発散し虚空へと消えていき、ジンはさらにその体積を縮ませる。ついにジンは一度空気が歪んだと錯覚するほど揺れ動き、高度を下げ始めた。


 最早ジンの大きさは直径五百メートルに満たないほどにまで縮んでいた。まるで墜落するように炎の天井が崩れていき全体の高度が下がっていく。

 そのまま対空装備の射程距離に再び入ってしまい、ジンは文字どおり蜂の巣にされていった。

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