第八章 八尾神様(6)
宴会場からかなり離れ人々の笑い声もほとんど聞こえなくなった。振り向くと炎の明かりが少し見える程度、再び視線を夜の闇へと向けた。
別に何か目的があったわけじゃない。本当にただなんとなく。明かりから解放され、人の視線から解放され、……子供ともいえるレクスから解放され、完全なひとりになりたかった。
ここから先向こうは暗闇だ。少し後ろに行けば明かりもついていないが家がある。しかし、ここから先に家などはもうない、完全なジャングル、森の奥となる。
そんな闇の中に俺はなんとなく手を伸ばしてみた。何かを掴むような仕草をしてみるが無論何も掴めない。……まるで自分の感情、気持ちみたいだ、そうかすかに思った。
周りにやたらと多い闇があるように、俺の奥からやたらと感情が溢れてくる。だけれども、どちらもどれだけ探りを入れようと決して掴めない。正体なんてわからない、闇。
なあ、親父。俺は……あんたにどんな感情を抱いている?
なんて、俺なんかがあんたに質問しても……あんたは答えてくれないよな。興味のないやつの質問なんて聞く気もおきないよな。
ああ、そうだよ。俺だってあんたなんかに興味はないさ。
じゃあ、なんでこうやって親父に問うているのかって? だから、わからない。
――本当は興味があるからだろうが――
「え!?」
ふと頭の中に何かが流れた気がした。耳も通さず直接頭の中で誰かの声が聞こえた気よう。だが、あたりを見渡しても何にもない。何にも……!
あった……明かりだ。炎の明かりにみえる。森の奥のほうにある。キャンプファイアは無論俺の後ろにあるため違う。なら、飛び火? そんなまさか、こんな距離で……。
「でも……火事!?」
俺は慌てて飛びだしていた。ジャングルの奥、数多にそびえる木々の隙間から漏れる光。不安定に揺れていてオレンジ色の光が放たれている。だが、なんとなく近づいていくなかでなぜか「火事じゃない」そう思い始めていた。
森の奥にある炎の光、これを見て火事じゃないと普通なら考えない。まず火事として恐れるだろう。でも、俺はその炎に対してなぜか恐れの感情が浮かばなかった。その炎の光にに吸い寄せられるようただ、一点を目指して進んでいく。
ついに俺の目の前に光が現れた。それは人ぐらいの大きさ、炎の揺れが地面や木々に反射して幻想的な光の波が生まれる。炎の塊……エネルギー体。
だが、俺の足は止まらなかった。ゆっくりと足を前に出し右手を炎のほうに伸ばしていく。だが、その炎の塊は生きているかのごとく蠢いた。まるで俺の右手が炎に引っ張られると同時に炎もまた俺の手に吸い寄せられているよう。
既に俺の頭の中から考えるという動作はなくなっていた。ただ、無心に手を伸ばし続ける。
だが、その炎と接触するか否かというところ、まるで何かに弾かれるようにその炎と距離をとった。同時に炎もまた弾かれるように離れる。
次の瞬間には炎の塊が急膨張し始めていた。瞬く間に俺の視界が炎に包まれる。かと思いきや一気に空高く飛び上がった。
忽ち炎のカーテンを敷くがごとく天井に広がり、そのまま空のかなたへと消えていく。ついに俺の視界から炎はなくなっていた。
「……ジン……だったのか?」
エレメンタルのジンだったのかもしれない。だが、それよりも俺はあの炎と接触した瞬間の出来事が気になっていた。
ほんの一瞬の出来事、何かに弾かれたようになったその直前。俺の頭の中に何か妙な意識が流れ込んできたような気がしたのだ。
なんなのか、まるで言葉にできない感覚。感情とは違う感覚。思いだそうとすればするほどどうにも説明ができず頭の中が混乱するばかりだったが、自然とある言葉が口から漏れた。
「……親父?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます