第八章 八尾神様(2)

 村は実にのどかだった。俺が最初この世界に来たときについた港の村のグレハ村とはまた違う雰囲気。大きな木造の屋敷みたいなのが数えられるほど建てられている感じ。

 言ってしまえば森の中にある本格的な田舎ってところか……ジャングルの中だけど。


 また、種の壁も他の所よりずっと低いように思える。街中はもちろん、たとえグレハ村であったとしてもサナとガオウが特別なだけで基本、ひとつの家に一種の一家といった具合だ。もちろん、当然だと思う。

 まさか別種同士で子孫も残せまいし家族、家系といえば必然と一種のみで構成される。


 だが、ここではひとつの家に複数の種が共同生活しているみたいだ。ただの集合住宅といった意味ではなく、ちゃんとした家族として複数種が同居している。種の垣根をもっとも超えることができている村なのだろう。


 サナは村にいる人たちを見渡し、人蝙種の女性に近寄っていった。


「すみません、オールトの中核都市から来ました。動物学者のサナと申します。今回、ヤオガミ・ユウセイについて少しお話をお伺いしたいのですが、お話していただける方をご紹介いただけないでしょうか?」


 村人はサナを見たあと、後ろにいる俺たちに顔を覗かせて再び戻す。


「八尾神様の話を聞きたいのですね? わかりました、では長老を呼びましょう。そうですね~、じゃあ、取りあえずわたしについてきてください」


 案内されたのは村の中心地にある建物。ほかの家よりもさらに一回り大きいように見える。だが、それよりも気になったのがその庭に置いてある像だ。身長が高いガオウの背丈よりももう一回り大きいその像。

 人猿種の像だというのはわかるがどうもご立派に飾られている。大層な服を身にまとい神々しい雰囲気を吐きだしていた。


「これってもしかして?」


 ミウナキがいち早くその像に駆け寄って見上げ質問すると案内人が小さく頷いた。


「ええ、八尾神様の像です。古くからこの村で大切に守られているのですよ」


 ふっ、これがあいつの像。似てもにつかない。六百年前、あいつの本当の顔はこの世界の記録には残っていないのだろう。この村、そして歴史家の資料にもないのだからな。もっとも俺の頭の中でもあいつの顔はぼんやりとしているのを考えれば、あいつの顔は誰にも分らない。


 その像を蹴り飛ばしてやろうか、なんて衝動にかられたがさすがにまずいので心の中だけでとどめておく。

 とにかく、その像を見ているなか、案内人が先に建物の中へと入っていった。


 事情を説明してくれたのか年齢が高そうな人が建物の外に出てくる。人羊種の人で顎に立てたヒゲを蓄えているその姿は立派な雰囲気を確かに感じた。。


 サナは早速出てきてくれた長老に声をかける。


「この村の長老ですか? 初めまして、動物を研究していますサナと申します。今回、動物と関係はないのですが、ヤオガミ・ユウセイについてお話をお聞きしたいと思い参りました。突然で大変申し訳ないですが、お時間ご都合などよろしいでしょうか?」


 長老はサナを見たあと、後ろのガオウ、ミウナキ、レクス、俺を順に見比べていく。正直、俺たちを怪しいと思っての行動だろう。だがそれからコホンとひとつ咳払いをかます長老はクルリと体を家の中へと向けた。


「まあ、取りあえず中に入ってください。話はそこからしましょう」


 建物の中へと勧められ、大きな広間へと進められる。広間の床は畳のようになっており、靴を脱ぐと上がっていく。すると驚いたことにその部屋の中では既に何人もの人が座布団を敷いて座っていたのだ。

 ほとんど男性だが女性もちらほらといったところか、もちろん複数種。


「何か……話し合いの途中だったんじゃないのか?」


 ガオウがそれに対しに疑問を持ったようで真っ先に長老に質問したが、本人は適当に笑う。


「なぁに、毎月やる村会議をやっただけだ。もう終わって雑談していたんだよ」


 長老が奥にある座布団に座るなか、奥にいた人たちが俺たち四人分の座布団を敷いてくれ、別の部屋から出てきた女性たちがお茶を出してくれる。


 敷かれた座布団にゆっくり座り込みながら長老率いる村人たちが居るほうを見る。長老以外おじいさんといえるような人はいないがそれでも若い人はほとんどいない。それぞれの家の代表者が集まっている感じだろう。ひと呼吸を置くと長老が話しだした。


「さて。八尾神様について聞きたいと聞いているが、それはなぜだね?」


 なぜか妙に緊張した空気が広間を走り、こっそりサナのほうに目を向ける。

 サナも同様の空気を感じたらしく、最初言葉に詰まっていたが、「信じられないかも」と前置きを付けながら俺が平行世界から来たということ、ヤオガミ・ユウセイが俺の親父ではないかということ、そしてなぜそのような見解に陥ったかを比較的丁寧に説明しだした。


 親父の気に食わない手紙から察するにこの村では八尾神悠聖という人物が言い伝えで受け継がれているのだろう。あの歴史家の発言やこちらが「ヤオガミ・ユウセイ」と言おうが村人は「八尾神様」と返すあたり、神格化しているのはわかる。実際伝説、神話でもあるのだから。


 だが、逆にいうと八尾神様と神格化しているような連中に俺が子供だとかいって素直に認めるとは……むしろ、罰当たり、神を侮辱するな、とか言ってくるのでは?


「こんなこと言って村人の逆鱗に触れたりしないのか?」


 サナが熱心に話しているのでこっそり聞こえないようミウナキに呟く。


「わかりませんよ。でも取りあえず気になったので、みたいな適当な理由じゃ話してくれそうもなかったですし……どうでしょう」


 小さい手で顎を触りながら首をかしげるミウナキ。ガオウはこれまた堂々と座り込んでいた。何事にも動じないというのか、ボディーガード臭がものすごく漂っている。というより、半分以上ボディーガードとしてここにいるのか……。


「と、言うわけなんですが……」


 説明を終えたサナが長老たちの様子を伺っている。俺も同じように長老たちを見た。その様子は非常に明白、驚愕だ。恐れ慄くがごとく見開く長老にざわつく後ろの村人たち。こっそり耳打ちしながら俺をチラチラと見始める。


 こりゃ、怒られそうだ……やってらんない。なんであんな奴のために俺がどこの誰とも知らない田舎村のおじさん、じいさんに文句言われなくてはいけないのか。


 もう、今すぐサナの手を引っ張り、みんな一緒にこの広間から、村から出たい衝動に駆られる。というか、もう実行する。その意思で俺は座布団の上であぐらかく足を立てようとした。

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