第八章 八尾神様
第八章 八尾神様(1)
あれから数日が過ぎた。研究所の庭で全長一メートルほどには成長しただろうか、随分と大きくなったレクスのじゃれあいに付き合っていた。
本来、子供とはいえ凶暴なワイバーン類なのだからある一線を越えるのもどうかと思うが、こいつが俺を親だと思ってくれている以上、最大限の愛情を注いでいるつもりだ。……誰かとは違って。
「ほら、行くぞ。取ってこい。それ!」
フリスビーをレクスの目の前で数回往復させてからその後一直線に飛ばす。それに向かって走りだすレクス。翼をパタパタさせながら必死に飛んでいくフリスビーを追いかける。やがて追いつくとそのままジャンプ。
空中で見事咥えキャッチするとこちらに走り寄ってきた。
「よし、うまいぞ! それ、もう一回!」
頭を撫でながら、フリスビーを受け取りもう一度飛ばす。再びフリスビーを追いかけるレクスの後ろ姿を見ながら気分がだいぶ緩やかになった。翼をはためかせる姿を見てそろそろ飛ぶ準備に入り始めているのかな、なんて思い始める。
「ユウト……ちょっといい……」
「えぇ?」
突然サナから声をかけられ振り向くと綺麗なポニテの黒髪と手を小さく振るサナがいる。その他、人狼のガオウ、人猫のミウナキがそろって立っていた。
帰ってくるレクスからフリスビーを受け取りながら、体ごとサナたちと向き合う。
「皆そろって、どうした?」
レクスの頭を撫でているとサナが一歩前に出てくる。
「ちょっとみんなと一緒に出かけるんだけど、一緒に来ない?」
「どこへ?」
「まあ、ちょっとしたとこよ」
「ほーん、そう。わかった。行くよ。なあ、レクス?」
「クァア!」
結局どこへ行くのかは知らないが、別についていくのに拒む理由はなかったのでレクスのもと気な返事もあり、この三人についていった。
で、気が付けばジャングルにいた。
「ここ、どこ?」
「ハロー地方の端。ジャングルの奥地」
アオゾラオオクジラでエッジワース地方を抜けてハロー地方にある空港のひとつに着陸。さらに、スカエールで近くの駅までは来たのだが、そこまで。ジャングルの手前まででその後、俺たちは徒歩でジャングルの中へと入っていった。
ジャングルといっても道はちゃんとある。舗装されているとまではいわないが草むしりされ土を顕にさせる道は手入れされていると見える。道に迷うことはまずない。後ろでガオウはいつでも草むらから飛びでる動物に対処するため手を腰の拳銃にかけている。
ガオウの警戒も納得いく。人気がほとんどないこの場所では本当に何が起こるのかわからない。道はあってもそのすぐ横は深いジャングルなのだから。
俺も周りを警戒しながら足を進めていく。恐竜類か、猫類か、虫か。警戒すべき動物ならいくらでもいる。
だが、その警戒網をかいくぐり、俺に何かが襲ってきた。本当に唐突のことで、一瞬にして俺の右手に何かがへばりつく。
「ぎゃあ!?」
「あっ、スライム!?」
不意をつかれ見事な悲鳴をあげてしまう。それをいち早く察知したサナが俺の右手に手を伸ばしてきた。そこでやっと俺も視線を自分の右手に向ける。そこには濃い緑色でぶにょぶにょした得体の知れない物体が俺の右手を包み込んでいた。
サナが無理やりその物体を引き剥がし、少し離れた地面に投げ捨てる。だが、物体は地面に叩きつけられるも再びこちらに向かって飛びかかってくる。
「どけ、サナ、ユウト!」
ガオウが一歩前に出てクイックドロウ。宙を飛んでくる緑色の物体に何発か発砲をすると物体の一部が散乱、すべて地面に墜落する。そのままうねうね動く物体は散らばった部分を引き寄せながらジャングルの中へと消えていった。
「ユウト、大丈夫?」
俺の右手を触ってくるサナ。
「たぶん、大丈夫だと思うけど……あれ何?」
「アニマルイーター。魔法生物でスライムの一種」
スライム……なんか雑魚そうな生物だな……ん? 魔法生物?
「あれ……エネルギー体か?」
「エネルギー体って呼ばれるのは主に精霊門に属する生物のみ。
魔法生物界にもいくつかの門があるのよ。
スライムは物質生物門、スライム綱、グリーンスライム目。ゼリーみたいな生物がスライムで、特に植物、動物を食らうのがグリーンスライム類。
ワームイーター科、アニマルイーター属、モリアニマルイーター。ワームイーター類は特に素早く動けて、よく動く虫、動物を捕まえてエネルギーを摂取するのよ」
それを聞いて俺に飛びかかろうとした瞬間を思い出した。地面から飛び出して俺のほうにきたのだ。アニマルイーター、名前からして動物を獲物とするのだろう。まるでヒルみたい。
しっかし、あまりに予想外の生物だった。まさか、恐竜か猫か虫かなんて警戒しているところにスライムが来るとは想像もつくまい。だいたい、スライムがいるなんてしらないし。雑魚っていうイメージしかないし。
とにかく、新たに警戒する項目を増やし、先を進んだ。
しばらく、進み続けるとひとつの建物が向こうのほうに見え始めた。ジャングルの中にポツンポツンと大きめの家が立っている……村だ。
「ここが目的地?」
「そうよ……サィミオ村」
「サィミオ村か。サィミオ村……サィミオ……サィミオ!?」
何か聞いた覚えがあると復唱を続けていると続けているとそれがわかった。
「まさか、親父のことを聞きにきたのか!?」
「ええ、そういう事ね」
「……なんで言わなかった」
「言ったら、付いてきてた? もう、お父さんのことなんてどうでもいい、なんて言って耳を防いでいたんじゃないの?」
「当然だ、わざわざあいつのことなんざ聞きたくもない」
「それは良くないよ。ここまで来たんだから、ついでだと考えて……ね」
「……わかったよ」
なんか、完全にサナに丸め込まれた気分だ。いや、実際に丸め込まれた。もう、今さらひとりで帰ることもできない。こんなジャングルの中でひとり待っているのも色々嫌だ。しかたなく、サナの思惑に乗り、村の中へと足を進ませた。
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