第六章 数多の地域(5)
そんなこんなで、スカエールは目的地へとどんどん進んでいた。やがてたどり着いたのはある施設だった。周りが壁で囲まれており、立派で巨大な箱庭みたいになっている。
「絶滅危惧種の保護を目的とした施設。一部は動物園として一般開放もされているけどね」
それはおもしろそうだ。少し成長してきたレクスが俺の後を付いてくるのを確認しながらサナ、ミウナキに続いて施設の中に入っていく。するとすぐに施設の関係者と思われる人物がやってきた。俺たちの案内役をやってくれるらしい。
サナが事前に内容を伝えていたらしく、スムーズにその場所へと案内されていく。途中で様々な動物が入った展示場を見かけることができた。檻でできたものもあるがパノラマ展示(ハーゲンベック式、無柵放養式展示ともいう檻や柵を使わない展示方法)もかなり行われていた。
そのなかでも一段興味を持ったのは六本脚を持つ狼だった。非常に奇妙な姿をしている。名前が看板に記されてあったので見ると【アシュラオオカミ】となっていた。
「サナ……なにあれ?」
「アシュラオオカミ。基本的に脊椎動物は一対以上の足を退化させてなくしたか、一対を翼に変えながら進化を続けたってのは言ったよね。それは食肉目の動物も同じ。ネコ亜目、イヌ亜目、ガルフ亜目の他、テングネコ亜目って分類があってそれは一対を翼に変化させた種類」
ちなみにガルフ亜目ってのはイヌでもネコでもない食肉類らしい。そのガルフの一種が檻の中にいて、見ると骨格がかなり違っており体勢がかなり低く、より俊敏そうな姿かたちをしている種だなと思った。サナは説明を続ける。
「ただ肉鰭類、つまり肺魚などが陸に上がり始めた初期の両生類は当然六本足。初期の脊椎動物は犬猫の祖先だろうと、鼠の祖先だろうと六本足だった。つまり、昔ながらの姿を変えず生き続けた、いわゆる生きた化石の一種がアシュラオオカミよ。系統的依存種ともいうか」
なるほど……それを聞いたらおもしろい。つまり、シーラカンスやゴキブリと同じ立ち位置にいる動物というわけだな。
「この施設ではそんなアシュラオオカミのような貴重な動物を保護、繁殖が行われている」
説明を聞いているとサナはある場所で立ち止まった。ゲートになっていて「関係者以外立ち入り禁止」の文字がきっちり付けられている。
「そのなかにはこういう動物もいるんだよね……驚くよ」
サナがつぶやくなか、案内人がそのゲートを開放。俺たちはそのゲートの奥へと進んでいく。いくつか厳重に管理されたドアをくぐり抜けていくと、ついにひとつの空間が見えてきた。
後ろは岩の壁、前はコンクリートの壁、太陽の光はそれなりに入るよう考えられた建築にはなっているが、周りに対してかなり厳重に扱われているのがよくわかる。
そしてその中にいたのは……一体のドラゴン。だが、それだけではもはや俺は驚かない。今まで散々色々な未知の動物に出会ってきたのだから今さらだ。
だが、やはりサナの言うとおりこの動物には驚いた……。顔が……首が……三つあるのだ。
「ラードーン・ケオラァドゥスという種。鳥竜綱、竜盤目、獣竜脚亜目、レオーネドラゴン下目、グラウンドドラゴン小目、グランガドラ上科、ライアドラゴン科、ラードーン属、ケオラァドゥス。
獣竜脚類のなかでも六肢で翼を持つ種類がレオーネドラゴン類。なかでもグラウンドドラゴンは前肢と後肢が同じ長さの類。特に首が長い種類をライアドラゴン類と呼ぶ。
そして……もちろん頭はひとつ」
そう説明を受けたあと、もう一度そのドラゴンを見た。大きさはぱっと見た程度じゃわからないほどデカイがおそらく全長三十メートルは下らない。すなわち超大型の竜脚類、通称カミナリ竜と同等の大きさということだ。
長い尻尾を地面に垂れ下げ、腹も地面につけており完全に座り込んでいる状態。まるで岩ではないかと思われるほど硬そうなウロコは進化の賜物だろう。
これだけの大きさの体を支えるのならば皮膚も相当な硬さにならなくてはならない。大きな翼があるためフロトプシケを体内に宿しているのだろうが、それでもこの大きさを支えるには大変なものがあるだろう。
胴体の先に見えるのは長い首。それこそ、竜脚類に比べれは長さは劣るが、それでも相当なもの。口は鋭そうな歯をそろえており、動物食ということがよくわかる。そして……そんな首、頭が三つあるのだ。胴体から三本の首が抜きでている。
「こんなのありえるのかよ!?」
「まあ、ありえる範囲内だよね。爬虫類、両生類は遺伝的にバグを起こしやすい傾向にあるから双頭のような奇形が生まれるのは珍しいなかでもあるほう。
哺乳類とかにだって例がないわけじゃない。ましてや、比較的最近に爬虫類と分岐したと思われる鳥竜類なら十分ありえるよ。ただし……さすがに三頭はなかなか見る機会はないけどね」
そ、そう言われたらそうなのかも。確かに双頭の蛇やトカゲなんてのはよく聞くほうだ。しかし、いざ見ると奇妙なものだ。いや、先天性の病気ともいえる奇形に対して奇妙というのは道徳的に避けるべきか。
「じゃあ、後は先生のご自由にどうぞ。わたしはここで待っていますので」
「ありがとう。さあ。、ミウちゃん、ユウト。行こうか」
「はい」
「え?」
あろうことかサナ、ミウナキは躊躇なく三頭のドラゴンがいるスペースに入っていった。人間が入れる檻のドアを開けるとすぐそこには三頭のドラゴンが壁も柵も溝も……なんの隔たりもなくいるというのにだ。
「ちょっと、待てって、おい!」
「なに、やっているの? 大丈夫、危険じゃないから、ほら、早く」
どこが危険じゃないの!?
なんて言い返す隙すら寄せず素早く中に連れ込まれてしまう。そのまま、俺までドラゴンの前に連れだされた。サナは俺のほうに手を置く。
「久しぶりですね、ヒドラ。紹介します、ユウトです」
どうしようもなくとにかくお辞儀をする。するとあろう事かドラゴンの口が動き始めた。
「久しぶりか……俺にとったらついこの前だがな」
……喋っちゃったよ、このヒドラとかいう名前で呼ばれたドラゴン。
「一年も前ですよ」
「俺にとったら人生六百分の一の時間でしかない」
「あたしにとったら十八分の一です!」
なんでサナとヒドラはなんの変哲もない会話をしているのですか!?
「ねえ、驚いたでしょ」
サナが今度、俺のほうに顔を向けてくる。
「驚くとかいうレベルじゃねえよ、まさか、これまで人間だっていうんじゃないだろうな? ていうか、さっき六百分のひとつて言ったよな!? つまり六百歳!?」
「人間じゃないわよ、ラードーンだって。あと六百歳というのはおおよそだけどね」
六百歳って脊椎動物の年齢じゃねえだろ!?
……いや、そう規格外でもないのかも……。全長三十メートルほどあるどでかい恐竜、竜脚類は一個体が百年、二百年の長い寿命を持っていたのではないかといわれている。
同じぐらいの大きさのこいつもまず、それぐらい生きるとみていいだろう。
そして、知能。言葉をしゃべることができるのなら相当なものだと推測できる。しかも、何百年と生きれば経験値も多くなる。
人間は知能や技術、文明を得ていく過程で生物としての本来の寿命から二倍、三倍と伸ばしていった。
こいつもその人間によって保護されながら生きているのだからその分は寿命が延びてもおかしくない。
しかも、こいつは見た感じほとんど動いていない。頭のバランスから考えて飛ぶのも無理ではなかろうか。餌をその場で与えてもらってほとんど動かないで済めば、心臓を打つ回数はさらに少なくなる。
これだけの好条件がそろえば……不可能じゃない? 爬虫類、両生類は遺伝的変異が起きても生存に影響がないことも多いし。
「いや、でもなんで喋るんだよ!? 言葉理解までしているじゃねえか!?」
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