第六章 数多の地域(4)

 調査がひと通り終わり、やっとこさゆっくりできる。そう思った時期も一日あった。つまり、終わってから二日後、今度は別件でカイパーベルト地方に行くことを告げられた。


「またか……」

「本来、あたしの専門は鳥竜綱。……まあジンにも関わるけど、ユウトにおもしろいもの見せてあげるから」


ということで、調査が終わってから三日後の早朝、俺たちは再びアオゾラオオクジラに乗りカイパーベルトという地方まで趣いていた。


 その場所は一言でいえば熱帯雨林。あたりに緑が生い茂り高い木がいくつもそびえ立っている。少しあたりを見渡すと大きめの昆虫類が飛び交っているのが見える。かと思えば茂みの中で小さな植物食恐竜の存在も認識できた。動物の楽園らしい。


 そんな森の中の上をクジラで横断していく。下のほうで何かの群れがささっと走り去っていくのが見えた。さっきいた植物食恐竜を追いかけているのがわかる。


「もしかして、あいつヴェロキラプトルか?」

「ええ、そうよ、ヴェロキラプトル・オスモルスカエ。テタヌラ下目、オヴィラプトル小目、ユーマニラプトラ上科、ドロマエオサウルス科、ヴェロキラプトル亜科」


 おお、某恐竜映画により有名になったかの恐竜だ。ティラノよりもずっと羽毛の量が多く、飾り翼の位置、尻尾を除けばダチョウといっても過言じゃない。いや、口はまだ歯が生えているはずか、上空からは詳しく確認できないが。


「逃げているのはホマロケファレ・カラソセルコス。鳥盤類だね。角脚亜目、周飾頭下目、堅頭竜小目、パキケファロサウルス科」


 つまり、あのやたらと頭が固いことで有名なパキケファロサウルスの仲間らしい。ただし、ホマロケファレでもライオン程度、ヴェロキラプトルはそれ以下の大きさ。大型恐竜と比べれば小さな体がいくつも熱帯雨林を駆け抜けていく。


 そして俺たちはその上の空を駆け抜けていた。全長がティラノみたいな大型恐竜だろうとバカみたいに小さくみえるアオゾラオオクジラに乗っている。

 世界を渡り飛ぶというこの世界での飛行機、もうすぐ着地地点でどんどん地面に近づいていく。


 そのまま静かに空港へとたどり着いた。そのまま今度はスカエールに乗ってさらに移動を続けていく。

 その途中、ジャングルの中に実に奇妙な木に出会った。スカエールに乗っているため上空からそれを確認したのだが、その木はなんとうねうねと動いているのだ。大きさもかなりのもので大木というにふさわしい。だが、驚きはそこで止まらなかった。


 木から伸びる枝の先が急に素早く動く。

 すると植物食動物ホマロケファレがその枝に掴まれたのだ。それをどうするのかと思えば幹のほうに引き寄せられ、まさかびっくり、幹がパクリと割れ口のようになり生き物を飲み込んでしまった。


「……あ……なにあれ!?」


 もう、さんざん驚いてきたがまだまだ驚くことはあるらしい。


「ジドラね。類植(るいしょく)動物の一種よ」

「類植動物?」


「脊索動物門や軟体動物門と並ぶ、動物界の類植動物門。見た目が限りなく植物に近いほか、性質も植物に少し似ている動物ね。

 あのジドラは半動類植(はんどうるいしょく)亜門、つまり地面に根を張ったタイプ。草茎(そうけい)綱、完摂食(かんせっしょく)亜目、ジドラ科。動物をまるごと食らってエネルギーを摂取するの」


「そんな植物だか動物だかよくわからんのまでいるのか……」


「そうね。他には生産類植亜門とか完動類植亜門とか。生産類植類はバロメッツとかだね。実と呼ばれる殻から動物、バロメッツなら羊を生産し、食料を蓄えさせて再び取り込んで摂取するタイプが多い。

 完動類植類は文字どおり根も張らず移動する類植動物ね。エネルギー摂取の方法もいろいろある。あ、あそこに居る神生樹とかおもしろい摂取の仕方をするわね」


 サナが指差す先にいるのはさっきよりもさらに大きい類植動物。その神生樹とやらももまた枝を動かし動物を捉えたのだが、今度は幹に取り込まない。

 代わりに、動物をツルのような物で巻きつけていく。かと思ったら何か光を発散しながらすべて跡形もなく消えた。


「同じ半動類植亜門、草茎綱。巻蔓吸(かんばんきゅう)目、養変換食(ようへんかんしょく)亜目、シンセイジュ科。養変換食類は動物をエネルギー体……つまり魔法生物に近いものに変換させてしまう。

 そのときにエネルギー保存の法則にしたがって残った肉体のエネルギーを吸収するのよ」


「……よくわからん」


「イメージとして肉体と魂を分裂させて余った肉体を食らうって考えたらいいのよ」

「恐ろしいな!?」

「大丈夫、無理やり引き剥がされた魂はよっぽど強い思念でも残っていないかぎり一瞬で消滅するから。一部は残って魔法生物になっているっていうのもあるけど」


 どちらにしても恐ろしいことに変わりはないと思う。うねうね動く奇妙な植物(正しくは植物じゃないらしいけど)に恐れに近い驚愕を覚えながら通り過ぎていく。

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