第五章 半破空間エッジワース(3)
レクスの人工保育開始から二週間ほど、時が流れる。少し大きくなったレクスを連れて俺とサナが向かったのはエッジワース地方だった。
その地方は一言で言えば不思議な空間。ある場所を境目に一気に豹変した場所は驚愕のあまりまるでコメントができないほど。
空気が少し重い気がする。太陽は出ていても少し薄暗い。ただ、極めつけは広がる広大な海だ。俺が今立っている場所は海に浮かんでいるちゃんとした岬だが、周りは広い海が広がる。
それ自体は珍しいものではないのだが、問題はそこじゃない。
少し、一キロとみたない先にもう島が転々としておる。そして、なんと……。
「島が……地面が……浮いている……?」
そう、島、地面が水面より上に……つまり浮遊しているのである。それも小さな島がいくつかあり、巨大な陸地が浮かんでいるのもある。しかも一定の高さではなくまちまち、数メートルしか浮かんでいないのもあれば、はるか上空にまで浮かび上がっているものまで。
「ここは大昔二種のエレメンタルが正面衝突したという伝説がある地。別名:破滅空域」
エレメンタル……つまりあのジンと同じ種ということだ。
「その二種はジンのエネルギーを遥かに超えるほどさらに巨大な力。そして同時に相反する力同士だったという。その力が正面衝突すれば忽ち空間そのものまで影響を及ぼしかねないほどのエネルギーがこの地域一帯に散乱していった。
エネルギーは一定の範囲にフィールドを発生させその地のみが独自の世界を築きあげていった。
そのフィールドはエレメンタル類を寄せ付けないほど、外部からシャットダウンされて独自の魔法生物、そしてそれを利用する動物が生まれていったのよ。それがエッジワース。
長い年月をかけ不安定ながらもギリギリ均衡が保たれた状態になったといわれている。
ちなみにこのあちこちにある浮遊した島はエネルギー散乱により異常発生したフロトプシケが変異を起こし……というより、環境によりあった個体が残って進化したフロトプシケ・クレイズがこの空間に充満しているから。そんな不思議な空間がエッジワース地方には広がっているのよ。
ゆえに正式にはほかの地域のがフロトプシケ種、フロトプシケ亜種でこの地域固有のものがフロトプシケ種、クレイズ亜種ってことになるね」
……とんでもない場所だな。
「この空間、人に影響はないのかよ? あとレクスにも」
「特別害はない。ただ、人によっては慣れていないと気分が悪くなるかもしれないから、そうなりそうだったら言ってね。レクスも大丈夫だと思うけど、疲れたりしたら体調を崩すかも。配慮はしてあげて」
「お……おう」
そのまましばらく待っているとその不思議な空間のむこうから一体のソラクジラがやってきる。紫色をしており、オールトでバスがわりに使ったスカエールより一回り大きいか。
「デストロエール。エッジワース地方の固有種。分類自体はスカエール科。さあ、乗ろう」
デストロエールに乗りながら目的地へと進めていく。窓から眺める景色もまた非常に不思議なものだ。宇宙空間じゃなかろうか、そう感じるほど俺のいた世界ではまず見ることができない光景。窓の向こうにあるのは浮遊している岩。
奥のほうにあるのは草が生い茂る島。そこにワイバーン類が着陸する。さらに別の場所では翼竜(おそらくランフォリンクス類)が小さな浮遊石から飛び立つ。かと思えばすぐ近くを小さな鳥が横切り、かなり広い大陸ともいえるほどの浮遊地面にはネコ類や植物食動物も見られる。こんな空間でもかなり生き物は生息しているみたいだ。
下のほうを覗けば地平線にまで続く海。一体のデストロエールが口を大きく開け海の水面を飛んでいっているのも見える。おそらく食事だろう。
途中、大陸に築かれている街や人が乗ったグリフォンが横切ったのを見るかぎり、人もしっかりと住んでいるとみていいのだろう。
実際、デストロエールに乗っている客も俺たち以外に数人いるし、駅に着いては降りて乗る人々が確実に居る。
そんななか、ある駅に降り立った。
「街ヘニルテ~、街ヘルニテです」
サナについていきデストロエールを降りる。そこは比較的大きな大陸。およそ、水面からは千メートルほど高い所か……。上にはまだまだ浮いている島はたくさんある。おそらく二千メートルほど高い所にまで浮き島はありそうだ。
この大陸には街が備わっている。オールトに比べたらずっと小さいが立派な街にはなっている。見たところ、商業街といった雰囲気を感じる。いろんな店があちこちにあって人々が盛んに取引を行っている。
俺はレクスがピョコピョコと付いてくるのを確認しながら、進んでいくサナに聞く。
「でも、この街と俺が帰れるかどうかの関係があるのか?」
「この街……というよりはこの空間では常に色々なエネルギーが発生しているのもあって、エネルギー研究の最先端が集まっているのよ。
言ってしまえば物理学の最高峰の一旦。そこで聞けば少しは平行世界のことについてわかるんじゃないかな、って思ったわけ」
「ふ~ん、なるほど……」
俺が腕を組み考え込むなか、街から外れさらに奥へと進んでいった。
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