第四章 ワイバーン討伐(3)

 キアノースより体の大きさで劣るティラノはジリジリと距離を詰めていくキアノースに対して後ろに下がりながらも叫び威嚇。だが、キアノースは距離をさらに詰めてくるのみ。


 俺たち人間が耳を塞ぎたくなるほどの強烈な咆哮を放ち合う二種。この二種間でしばらく睨み合いが続いたが先に動いたのはティラノの群れだった。


 ティラノの群れにいる八体のうち、二体がキアノースに向かって素早く喰らいかかる。地面を蹴り上げ巨大な足から土煙を立てながら突進をかます。大きな顎を存分に開けキアノースに立ち向かっていった。


 だが、キアノースの反応はさらに素早かった。一体のキアノースが振り向きざまに尻尾を鞭のようにしならせる。それは忽ち一体のティラノの首元を直撃。そのまましっぽは振りきられキアノースは体をそのまま三百六十度回転しもとの体勢に戻る。その勢いに完敗したティラノは大きな図体を地面に叩きつけた。

 それに対し勝利の雄叫びをあげるよう倒れるティラノに向かって咆哮を放つキアノース。


 だが、もう一体のティラノが残っている。その一体が攻撃をかましたキアノースにかかっていったが、それよりも先にそのティラノの首をもう一体のキアノースが食らいついた。

 途端に叫ぶのは首を噛み付かれたティラノ。噛み付くキアノースのエリマキを短い前足で必死に引っかき、足を蹴り上げなんとかキアノースの顎を放そうともがく。だが、キアノースの顎にかかる力が緩む気配はまるでなかった。


 キアノースは首を左右に何度も振りティラノの体力を奪っていく。悲鳴をあげ続けていたティラノも次第に弱まっていき、声がかすれていく。キアノースのエリマキを引っ掻く前足も停止し、だらりと力が抜けるころ、キアノースは首を一度振り上げ一気に振り下げた。


 地面に叩きつけられるティラノ。恐竜ではあるが虫の息。完全に敗れ散ったティラノの前に二体のキアノースはエリマキと手に張られている翼を広げながら雄叫びをあげた。


「あれはワイバーン類にみられる特徴的な威嚇方法ね。エリマキ、翼を広げることでより体を大きくみせようとしていると考えられている。でも……これはあまりに圧倒的ね……」


 俺はあまりの規模にそれどころではなかった。ティラノでさえ全長十三メートル。キアノースはそれを越える大きさ、そんな巨体が争い合っていれば圧巻とかのレベルではない。まさに怪獣映画そのものだ。ただ、それでもキアノースの圧倒的強さは確かに感じる。


「ガァアアアアアアアアアア!!!!!」


 なおも叫び続けるキアノースの二体。それに対し、別のティラノが攻めかかる。大顎を大きく開けキアノースのエリマキに噛み付かんとする。だが、キアノースは広げていた翼を地面に叩きつけるように羽ばたかせるとさらに地面を蹴り上げ跳躍、巨体が浮き上がる。


 突然の出来事に混乱しているティラノ。そのティラノに対し浮き上がったキアノースは再び降下、足蹴りのような一撃を上空から食らわせる。その攻撃に耐えられず倒れふせるティラノ。その体にキアノースが足を乗り上げ、再び強烈な威嚇を放った。


 ついに威嚇し返すことも辞める残りのティラノ五体。ジリジリと後ろに下がっていく。そこにキアノースからのダメ押しともいえる大きな咆哮に踵を返すと倒れた三匹を置いて逃げ去っていった。


 恐竜の王者が……たった二体のワイバーンに敗れ去った。相手がワイバーンとも言え度、恐竜最強のイメージが強いティラノがやられてはさすがにショックを受けざるをえない。


 キアノースは既に倒れたティラノに対し何の関心も向けずに今度はこちらに視線を移し替えてくる。その目は明らかに敵意を向けていた。


「あれは放っておいてはだめですね」


 サナが人鳥種のリーダーに冷徹な冷たい声で告げた。


「ティラノサウルス・レックスはこのあたりで食物連鎖の頂点の一角。それが群れでかかっても完全に敗北させてしまうほどの乱入者があっては生態系が大きく乱れる。人間の生活環境にまで影響を及ぼすかもしれません」


 実に人間中心、エゴな考えだが否定できるものではない。実際、外来種というものは危険視されているのだから、人間の手がかかっていないものといえど……、いやまず、このキアノースがなぜ生息地以外の所にいるのか、その理由も定かではない。


「これよりキアノース・レクテスの討伐を開始する。第一、第二討伐隊、小銃発砲用意!」


 その合図にしたがい圧倒されていた隊員たちもすぐに気合いを入れ直し射撃体勢に入る。俺から見て四百メートルほど先にいるキアノースはなおもこちらに向かって翼を広げ威嚇を続けている。それに対し百メートル先にはライフルを構えるその討伐隊。


「待てよ、本当に殺すのか?」

「討伐って言っているじゃない。捕獲とは言っていない」

「でもさ、麻酔で眠らせるとか」

「こいつに効く麻酔を打つにはどれだけの量が必要だと思っている? そんなの打っている間、キアノースがおとなしくしてくれるとでも? 麻酔を打っておとなしくさせるのに既に大人しかったら、麻酔する意味もない」


 そうか……麻酔はそこまで発展していないのか……。いや、ティラノより大きい動物を眠らせることができる麻酔なんて、俺のいた世界の技術でも簡単ではないのかも……。


「殺さず追い払うにもコイツの生息する地域が遠すぎる。殺さず解決するのは不可能」

「そうか……しかたないのか……」


 正直、それ以上文句はでなかった。殺す行為に文句を言っても逆に人間のほうにその反動が来るだけだ。だからこそ、俺は黙って作戦を見届けようと思う。


「右のキアノースの頭部に集中構え……撃てぇ!」


 途端に雷のような騒音とともに煙が上がる。そこから飛翔したいくつもの弾丸は確かにキアノースの頭を穿つ。威嚇をしていたキアノースもすぐに鳴き声を悲鳴に変え大きく怯む。


「次弾装填、続いて左のキアノースの頭部に集中構え……撃てぇ!」


 まるでデジャヴを感じるほど規律を取れた攻撃はもう一体のキアノースにも同じ目を合わせていく。大きく怯み、首を振りながら数歩下がる。


「迫撃砲用意!!」

「迫撃砲、角度確認、装填!」


 人鳥種のリーダーが後方の討伐隊の隊長に指示を送り、後方討伐隊、すなわち俺たちのすぐ前の討伐隊の隊長が指示を下していく。


「「「角度よーし! 装填よーし!」」」

「撃てぇ!」

「「「発射!!」」」


 強烈な発射音とともに地面に煙が舞い上がる。一瞬びくりと反応したペガサスをサナがなだめているなか、さらに指示が届く。


「衝撃にそなえ、伏せ! 3、2、……弾着、今!」

 先に二体のキアノース背中から煙が上がる。続いて少しタイミングがずれ地響きを起こすような低い音が空気に振動して伝わってくる。


 その火力に苦痛の叫びをあげる二体のキアノース。しっぽを振り回し暴れようとするなか、討伐隊の中から二体のグリフォンが出撃。キアノースを攪乱するようにあたりを旋回しながらグリフォンに乗る人が拳銃を発砲しダメージを与えていく。

 そこにシャチなみなみの大きさのソラクジラ一体が上空を占拠。


「爆弾、投下開始!」


 キアノースの周りにいたグリフォンが離れ、そこにソラクジラから投げだされた爆弾が次々と投下されていく。その猛攻に耐えきれず、ついに二体のキアノースは地面に伏せた。


「第一は右のキアノース、第二は左のキアノース。ともに頭部に集中構え……撃てぇ!」


 一斉に火を吹くライフル銃。それは確かにまたキアノースに直撃。だが、その直後二体のキアノースは大きな叫び声のもと、倒れながらも首だけ大きく上げた。


「くっ、まだか。間髪入れず、心臓部集中構え……撃てぇ!」


 だが、そのキアノースの叫びは断末魔の叫びのそれだった。発砲された弾丸がキアノースの心臓に届くか否かといったところ、持ち上げた首は力尽きるように音を立てて地面に崩れ落ちる。それは凄く静かな倒れ方でありながらも音は大きかった。


「撃ち方やめ! 撃ち方やめ! 第一、第二討伐隊。警戒を怠らず前進!」


 慎重に倒れる二体のキアノースに接近。相手はピクリとも動きやしない。やがて、死亡が確認されたらしく事態は一度終結。攻撃開始から時間にして五分とかからなかった。

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