第四章 ワイバーン討伐(2)

 さっそく俺たちは討伐隊が編成された場所にきた。俺を含めたサナたちに一連の討伐の流れを教えてもらうが、いたってシンプル。俺たちは討伐終了まで後方で待機、その後調査のために前に出ることが許されるというだけのもの。


 討伐隊から貸しだされたペガサスに乗っていく。俺はサナの後ろで二人乗り。ミウナキのほうはガオウと二人乗りになっている。


「って、ガオウさん? いつの間に!?」

「さすがにサナが仮にも戦場に行くって聞いたらガードも兼ねて行くしかないだろう」


 だそうで。


 ちなみに今乗っているペガサスはハイイロペガサス。文字どおり灰色の毛並みを持っている。分類は奇蹄目、テンマ亜目、テンマ科、テンマ属、ペガサス種、ハイイロペガサス亜種とのこと。六肢を保ったまま進化を続けた動物の一種というわけだ。


 しばらくそのまま時が過ぎるがやがて合図によって前衛の討伐隊が飛び立ち始める。基本的にこのハイイロペガサスに乗る人たちで大半を占めるが、一部はそれ以外の動物もいる。とにかく、三十人ほどの討伐隊が一斉に飛び立ち、続いて俺たちも飛び上がった。


 その光景は圧巻の一言。翼のはためかせる音があたりに響き大空を舞っていく。人が乗っている動物には例のフロトプシケとやらが宿っているからなのか、体にも本当に誤差ぐらいではあるが浮遊感を感じなくはない。

 まるで渡り鳥の群れの中に入り込んだよう。とにかく戦闘機の編成やら空母と駆逐艦の艦隊ともまったく違う雰囲気は実に自然的で俺の心をワクワクさせた。


 しばらく飛行が続き、やがてオールトの街を抜ける。さらに先へ進んでいくと討伐隊の誰かが前方を指さして叫んだ。


「前方に接近中の群れがあります。このまままっすぐ行けば街にまで突っ込んでくるかもしれません!」


 その言葉を聞き俺はサナの背中から顔を伸ばし前方を見る。向こうには確かに何かの動物がこちらに向かってきていた。


「あれが例のワイバーンなのか?」

「……違うね」


 しばらく討伐隊の間でやりとりが行われると討伐隊のリーダーが手を下に仰ぐ。


「降下! 降下開始! 今より先に前方の群れの進行方向変える作戦に移行する!」


 人鳥種のリーダーは大きく声をあげて言うと真っ先に降下を開始。続くように他の討伐隊が続いていく。俺たちの乗るペガサスも降下し地面へと着陸した。ところどころ岩の山は見えるが基本的に平坦が続く草原といったところ。


 グリフォンと違って安定のある地上走行に安心しながら停止を待つ。しかし、万が一の場合に備えて俺たちはペガサスから降りないように指示を受けているのでそのまま待機。その間に討伐隊は編成を整え、戦闘態勢に移行していく。


 前衛討伐隊がライフル装備。少し後ろで迫撃砲に近い大砲の用意がされている。剣や弓で立ち向かうのかな、なんて思っていた俺からすれば想像以上、兵器そのものだ。


 兵器は詳しくないからわからないが、このライフルもなかなか様になっているものだと思う。さすがに自動小銃ではないが銃の上部分にパイプ、そしてハンドルが付いているのがわかる。多種族で構成されるライフルの討伐隊は、そのハンドルを手前に引き再びハンドルを元に戻し、準備を進めていく。


「なんだ、ユウト。動物だけでなく銃にも興味があるのか?」


 ふと隣で同じくペガサスに乗って待機するガオウから声をかけられる。


「いや、別に」

「あれはボルトアクション式ライフルだ。簡単にいうとあの銃についている出っ張り、ボルトを起こして手前に引くことで空薬莢が排出、ボルトを戻すと装填され次弾を撃てる」

「へ~」


 正直まったくわからんからその知識は心の底からどうでもよかった。


「で、後ろにある迫撃砲については」

「ごめんなさい。もう大丈夫です」


 これ以上、興味のない話を聞かされてもつまらないだけだ。きっぱり断ると視線を前方に向けた。俺たちとは違ってピリピリした空気のなか、銃を構える隊員たち。その奥からやってくる動物の群れはあと五百メートルをきったころだろう。その姿を見て俺はとっさに感じた。


「まさか……ティラノサウルス!? しかも、羽毛!?」


 非常にがっちりした後ろ足で大きな体重が支えられており、それに対して不格好なほどに小さい前足。そして大きな顎。無論図鑑でしか見たことなかったが、なんとなくティラノサウルスなのでは、と思った。

 この世界における進化の過程か、そもそも俺のいた世界の過去でもこんな姿だったのかは今のところ定かではないが、全身の大半が羽毛に囲まれている。

 いや、おそらく俺のいた世界のティラノサウルスよりも羽毛の量は多いのではないだろうか。


「ユウトの言うとおり、ティラノサウルス・レックス。分類は鳥竜綱、恐竜上目、竜盤目、獣脚亜目、テタヌラ下目、コエルロサウルス小目、コエルロサウルス上科、ティラノサウルス科、ティラノサウルス亜科、ティラノサウルス属、レックス。コエルロサウルス小目に属するのはすべて羽毛恐竜ね。ただ、あれ自体はここらにも生息しているから問題はない」


 問題はないといっても恐竜の王者が八体ほどの群れを組んでこちらに向かってくるのだが。


 しかし、討伐隊は冷静だった。人鳥種のリーダーが指示を出していく。


「第一、 第二討伐隊、威嚇射撃用意。ティラノ本体を狙わず、上空へ向かって撃てぇ!」


 途端に爆音、続いて斜め上に向けられた三十の銃口から煙が上がる。すぐさま隊員たちはそのボルトとやらを引くと空薬莢が三十個宙に舞う。間髪入れず次弾装填を素早く済ませる。


 だが、ティラノサウルス・レックスはまるで怯みやしなかった。壮大な爆音にも何ひとつ動じずこちらに向かって走り続けている。


「威嚇射撃、二発目構え、待機。迫撃砲用意!」


 だが、その用意される筒から鉄の塊が発射されるより先にティラノサウルス・レックスの群れにふたつの影が駆け抜けた。忽ち群れを追い抜きその影は俺たち討伐隊とティラノサウルス・レックスの群れの間を陣取る。その次の瞬間には土煙を上げ二体の動物が降り立った。


 煙から見えたのはティラノサウルス・レックスを超える巨体。ティラノと対照的で羽毛がまったくなく、茶色に近い赤色で爬虫類のような皮膚。ティラノよりはずっと細いがそれでも確かにその巨体を支えている大きな足。手は非常に大きな膜を張った翼になっており、それを着地と同時に折りたたむ。

 なにより一番の特徴は首周りに広がるエリマキ。


「まさか、これが……ワイバーン!?」


 サナはその光景を前にして躊躇しながら頷いた。


「ワイバーンには違いない。あれはキアノース・レクテス。あのエリマキはキア類の特徴だし、キア自体はここらにもいる。鳥竜綱、翼竜目、飛龍亜目、ダイナワイバーン上科、ダイナワイバーン科、キア亜科に属する動物よ。


 でも、同じキアと名のつく奴で似た姿をしていてもあれは完全な別種、ダイナワイバーン上科でもキアノース科。キアノース属、レクテス。北にある一部の地域にしかいない固有種」


「という事は、こいつがこの地域に迷い込んだワイバーンに間違いないってわけだな?」

「そういう事になる……。多分レックスはレクテスから逃げていたんだ」


 キアノース・レクテス二体が四倍の数であるティラノサウルス・レックスに対してなんの躊躇もなく威嚇の咆哮を繰りだす。さっきの銃砲でもひるまなかったティラノだったが足を止めて完璧に怯み始めた。銃砲を気にしないほどこのキアノースから逃げるのに必死だったということらしい。

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