第三章 中核都市オールト(8)

 ミウナキを置いておきながら、サナに連れていかれたのは研究所から近い所にあったバス停みたいな場所。

 ただし、しばらく待っているとやってきたのはバスでも馬車でもなく、ソラクジラ。あのアオゾラオオクジラほどのでかさはないがザトウクジラは軽く超えてくる。背面が青色、腹が白色をしており、見たところヒゲクジラ。


「スカエールよ。街中の交通手段のひとつ。列車よりも遠出するときによく使われる。ちなみにアオゾラオオクジラがソラクジラ科に対してスカエールはスカエール科。同じソラヒゲクジラ上科だけどいちおう完全な別種ね。さあ、乗ろう」


 サナに押されるまま停止したスカエールに乗車……乗馬……乗鯨する。さすがにアオゾラオオクジラの上に乗っかっていたほどのロッジは存在しないが簡易的な小屋は備わっており、中にはニ十人ほど同時に乗車可能な椅子が並んでいる。そして、前にはスカエールを操る運転手。


 やがてスカエールは空へと上昇して目的地にまで俺たちを運び始めた。


 基本的なシステムはバスと同じ感じらしい。空と地上という大きな違いと、必ず駅に停止するという以外は同じ。街のあちこちに散らばった停車駅にルートに沿って回っていくのだとサナは説明してくれた。

 今、お客さんは俺たちを含めて五人。やはり、時間帯によったらこの席は一瞬で埋め尽くされているらしく、何頭も数分置きに運用されても追いつかないこともあるとか。だからこそ、そういった時は否応なく、列車や馬車を利用するのだという。



 いくつかの駅を超えたあと「オールト総合病院前」という駅に到着。もちろんここで降りるわけでサナが二人分の運賃を払ってくれると下車……下鯨。過ぎ去っていくスカエールを見送ると目の前に広がる大きな病院へと足を向ける。


 やはり病院もコンクリートでできた立派な建物。正直、俺のいた世界でこの建物が立っていたとしても総合病院といって疑われはしないのではないだろうか。さすがに俺のいた世界で考えられる巨大病院と比べれば小さいがそこと比べるのは非常にかわいそうだ。


 建物の中に入ると受付にサナが向かっていく。村の診療所から招待状を出してもらっていたらしく、数度の会話の後問題ないことをサナから告げられた。

 この世界でも外科、内科といったものが存在しており、看板にその文字が刻まれている。そして人種別にも分けられているらしい。まあ、種が違えば治療法も変わってくるだろう。単純な外科治療はまだしも手術、そして内科全般は大きく違うと見て間違いない。


 足を打撲している俺の尋ねる場所は無論、整形外科。そしていちおう、人猿種として通された。比較的待っている人数も少なく、少し待てば俺は医師のもとに向かうことができた。といっても、分らないことだらけだから、サナについてもらいながらの診察になるわけだけれども。


 俺の名前を呼ばれ、医師の前に立ってまず驚いたのはその姿だった。一言にいえば羊、ただし服を着て椅子にしっかり座っている。


「人羊種?」


 医師に聞こえないようにサナに耳打ちするとそうだと言われさっさと医師の前の椅子に座るよう促される。それにしたがい俺はゆっくりとその席にまで行った。


「ユウトさんでしたね。そんなにわたしの姿が変に見えますか?」

「あ、いえ! そのような事は決して!」


 顔の形は根本から違えど一瞬でわかったニッコリとした笑顔。しかも、うれしさゆえの笑顔ではなく「何か文句でもある?」の笑顔であることも。


 人羊種。確か、サナから教えてもらった話だと鯨偶蹄目のニンヨウ亜目に属する動物だったはずだ。羊は同じく鯨偶蹄目でもウシ亜目。かなり遠縁の関係。確かニンヨウ亜目にはニンヨウ科とかクソデモナス科とかがいたんだっけ。

 ニンヨウ科には人羊の他にサテュロス属、クーガ属とかもいるって聞いていた。俺の感想からすると目の前の医師はファンタジーでよく見かけるサテュロス、フォーンといったのとよく似ている。


 顔、頭部分は毛で覆われているが全身は人猿に近いぐらい体毛は少ない。足の部分が蹄になっているらしく、特殊な靴を履いている点が目立つ。背は高く百七十は超える。


 そして多分、この医師は女性。比較的丸みを帯びた体に膨らんだ胸。そして角はついているがかなり細く小さい。そういえば、人猫種は女性も胸が膨らんでいなかったよな……。

 人猫はまだ人間への進化途中だって言っていたし、哺乳類の人間でも妊娠時しか膨らまない自然界の動物と同じ特徴を持つのもおかしくはないか。


「あのユウトさん? そんなにジロジロ見てわたしの姿が珍しいですか? いちおう、診察するのはわたしなのでむしろ、わたしがあなたをジロジロ見るべきぐらいのはずですが」

「あ……つい、失礼しました……」


 無意識にまたジロジロ見てしまっていた。後ろで立っているサナが呆れたようにため息をつくと、俺の背中を軽くつねりながら医師に向かって言う。


「先生、とりあえずユウトの足見てもらえます?」

「ああ、はい。そうね。じゃあ、足を拝見しますね」


 俺は背中の絶妙な痛みに軽くもがき抵抗すると右足を医師のほうに出す。すると医師は包帯を外し、湿布をめくると静かに足を観察した。


「もしかしたらかなり腫れていたのでは? 今はそれなりに引いていますが、少しまだ腫れていますね。まあ、じきに治るでしょう。押していくので痛かったら言ってください」


 足首が少し赤い足を医師が親指で押していく。やはり少し痛みが走るので素直に告げると、今度は関節を少し動かされさらに痛みが少し走る。


「うん、まあでも、足首自分で動かせているし触った感じも神経に問題はないと考えていいでしょう。腫れを抑える貼り薬一週間分とサポーターを出しますのでそれで様子見をしていただければいいと思います。それでも腫れが収まらないようでしたらまた来てください」


 医師は取りだした貼り薬を患部に貼り付ける。さらに、サポーターの巻き方を教わりながら足が固定されていく。

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