第三章 中核都市オールト
第三章 中核都市オールト(1)
目が覚めた。あたりを見渡す、そこは昨日サナにここで寝ればいいよと提供してくれた部屋だ。残念ながら昨日あったのは夢ではなかったことを意味している。昨日の夜、朝目覚めれば自分の部屋で寝ていましたなんてことを少しでも期待したがそれは夢のまた夢らしい。
目をこすり、窓のカーテンを開けると太陽の方向とは違う窓だが、少しは明かりが入ってくる。その光を通してベッドに立てかけた松葉杖を手に取ると「いちにの三」と勢いをつけて立ち上がり、部屋を出た。
少し廊下を進めると階段が出てくる。この世界でも見た目こそ日本家屋だが二階建てというのは珍しくないらしい。もっとも怪我をしている俺を気遣ってか一階の部屋を用意してくれていたから関係ない。階段の上のほうを覗く。この上でサナの部屋があると言っていた。
「ユウト、起きているの? 朝ごはんあるから来て」
「あ、ありがとう!」
サナに呼ばれダイニングと思われる部屋に足を進める。昨日の夕食もお世話になったのだが食事は普通にダイニングテーブルで行っている。食べ物も基本よく似たもの(唐揚げがグリフォンの肉だったのはもはやカウントにいれまい)。ゲテモ
ノ料理とかはない。
そして今日の朝ごはんは白ご飯、スープ……というか味噌汁、野菜の和え物。物凄い馴染みがある料理を行うサナに逆に違和感を覚える。おまけに用意される食器道具が『箸』。
「「「いただきます」」」
ガオウ、サナが手を合わせたあと箸をご飯につけ始め、俺も同じようにしてから食べる。ガオウ、人狼の手はどう見ても器用そうには見えないがうまい具合に箸を掴んでいるのを見ると、なんとも不思議な感覚だ。ただ、サナが作るご飯が美味しいことに変わりはなかった。
食事が終わると食器を洗い始めるサナ。俺が皿洗いぐらいならできるというがサナはそれも断りひとりで洗ってくれている。ちなみに水道が通っているし、プロパンガスを使っているというから驚きだ。
文字どおりひねれば出る。この世界でも技術力はかなり進んでいるらしい。電気は通っていないみたいだが、ガオウが読んでいる新聞を見れば技術があるのは一目瞭然だ。活版まであるのか。
その新聞の一面記事には『突然の異常気象!?』なんて書かれている。
それから特にすることもなく時が過ぎるのを待っていると準備ができたらしいサナがカバンを持って声をかけてきた。
「ユウト、そろそろ行こっか? ガオウさんもいいよね」
「あ、ガオウさんも行くんです?」
「まあな、いちおうサナの父親替わりだ」
「へ、へえ、父親……ね」
父親という言葉に一瞬寒気を覚えたがすぐに気分を切り替え、松葉杖を準備し、移動開始。サナとガオウの後ろをついて歩く。どうやってその街へ行くのだろうか。正直歩いていける場所にあるとは思えないが……そう思っていると向こうで大きく手を振っている人がいた。
ひとりは人蝙種。昨日、声をかけてきた人だ。もうひとりは俺を助けてくれたらしい人竜種の漁師。その後ろに待ち構えているのは二体の巨大な鳥……じゃなくグリフォンだ。
大きさは多分ライオンを超える。ゾウとまではいかなくてもかなりの大きさがある。薄水色の毛並みに額部分に二本の赤い羽毛が目立つ。鳥によく似ているが体と比べれば小さめの嘴。鳥の足と同じようにウロコと羽毛に包まれた足が四本伸びているほか、大きな翼も兼ね備えている。
骨格は四本足というのもあり、鳥とライオンを足して割ったような形。後ろにそれなりに長い尾羽もついている。足は鳥よりはずっとがっちりしているようにみえるかな。
「な、なあ、サナ。もしかしてこれに乗っていくのか?」
「ええ、もちろん。ここから空港まで続く交通機関はないからね。基本的に村の人に送ってもらわないといけない。あ、空港からは問題なく行けるから安心して」
人竜と人蝙の人が先にひらりとグリフォンに乗り、続いてサナが人蝙種の人の後ろに乗り込む。ガオウはその隣へ歩いていくと俺に向かって手招きをする。
「ほら乗れ。その足じゃ自分で乗れないだろ」
サナの後ろに当たる部分のグリフォンの背中をぽんと叩くガオウ。
「あ、そう……か」
松葉杖をグリフォンの横腹に固定し、俺自身もガオウに手伝ってもらいながら乗り込む。背中は人が乗りやすいように鞍が付けられており、そこに腰を合わせる。するとサナからベルトを渡される。ベルト肩から腰にかけて固定され、最後フックを鞍に引っ掛けてくれる。
「空飛ぶからね。安全措置として義務付けられているのよ。まあ、安心して。よっぽど動物の機嫌が悪くないかぎり振り落とされることなんてないから」
なるほどシートベルトみたいなものか。ちょっと不安要素もあるが……。
「よし、じゃあ行くぞ。しっかり捕まれよ」
「ちょ、え!? もう? うぁあ!?」
人蝙種の人の合図とともに折りたたまれた翼をバサリと音を立てながら広げるグリフォン。次の瞬間には翼が地面に打ち透けられグリフォンの蹴り上げとともに空へ舞い上がる。その勢いに飲まれないよう鞍の部分を必死に握り締めた。
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