第一章 自分だけの物語(2)
気が付けば流れは緩やかになっていた。まるで宇宙遊泳をしているかのようにゆったり。周りは綺麗な水色。川の中か……?
まるで上下左右がわからない。ただ、なんとなく光を感じる方向が肌を通してわかる。とにかく目印はそれしかなく、その光に向かって手を漕ぎ始める。
息がもつギリギリのところでついに水面に躍りでた。同時に体に溜まりに溜まった二酸化炭素濃度が高い空気を吐ききり、新たに新鮮な空気を取り込む。だが、そのとき同時に吸い取った匂いに違和感を覚えた。
「磯の香り? ……海!?」
唐突に思考が始まり、脳がフル回転。処理を終えるとそれが本当なのか確かめるためにあたりを見渡す。あの幼女も子犬もいない。街もない。岸すらない。
「は!?」
混乱に混乱を呼ぶ展開に脳がまるで現状を認めようとしない。あまりに信じられない。しかし、そういえば上がやたら暑い気がする。最初は照りつける日光かと思ったがこれは違う。
立ちこぎで体を維持しながらおそるおそる視線を天に引き上げる。そして……混乱に混乱にさらなる混乱を呼んだ。真っ赤な天井。いや、オレンジがかった天井、いや。
「炎の……空?」
あまりに信じがたい光景だった。ただ広く広がる海だけでなく、その上にはただ広く広がる炎につつまれた天井。唸りをあげて天が太陽の表面よろしく燃え盛る。
だが、それを見ていられるのも今のうちだった。忽ちその炎が揺らぎ始める。かと思えば炎はなんとこちらに向かって飛びだしたのだ。
まるで炎の手が俺を捉えようとするかのよう。その大きさは横に泳いで避けられるものではない。選択肢は必然と水面下に非難するのだった。
炎で熱くなった空気を吸い込みすぐに潜り込む。そのスレスレを炎の塊が飛び込んでくるのが肌を通して理解した。衝撃にもほどがある。目を閉じていてもおかしな状況下にあるということだけは理解できる。何がどうなっているんだ!?
しかし、その直後右足に激痛が走った。その痛みが脳の神経を突き刺し、ショックで肺に貯めていた空気を吐きだしてしまう。
ああ、沈んでいく。肺に溜まった空気が一気に少なくなり、浮力が弱まった体が海の奥へと引き込まれていく。それに比例するように意識が遠のいていく。もはや『しまった』と思う意識さえなくなりただ、ゆっくり、ゆっくりと意識の瞼を閉じた。
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