水着ショー

 やなせ姉が嘉穂さんの肩に手を置いた。

 バスローブを背後からひったくる。


「ひゃあ!」



 嘉穂さんが悲鳴を上げると同時に、バスローブが宙を舞う。


 男子生徒が、感動の声援が上がる。まるで桃源郷を見たかのように。



 嘉穂さんの水着は、ピンクのビキニだ。

 ふっくらとたわわな果実は、小さな桃色の布に収まりきっていない。

 出るところは出て、引っ込んでいるところは引っ込んでいる。

 腰に巻いている花柄のロングパレオが、清楚さとセクシーさという相反する作用を調和していた。


 嘉穂さんは必死に自分の身体を隠そうとしている。

 が、やなせ姉が片手を掴んでポーズを取らせているため、自由が利かない。


「イエーイ!」と、やなせ姉もローブを脱ぎ去った。


 やなせ姉もすごいものである。

 嘉穂さんと違い、黒ビキニというチョイス。嘉穂さんと色違いだ。

 大きさは嘉穂さんと同じくらいかもしれない。どことは言わないが。

 嘉穂さんと違って背が高いため、大きさと背丈がマッチしている。

 身体も引き締まっていて、余計な贅肉もない。


 男子生徒たちからは、歓声どころか驚愕のため息が漏れている。

 対して、女子は湊やのんに釘付けになっていた。


 巨乳組の嘉穂さん、やなせ姉に対して、二人とも細身でスラッとした体系だ。

 運動部から引っ張りだこなだけあり、のんはスポーツマン然としたプロポーションを持つ。

 湊はモデルかと見間違えるほど、腹がへっこんでいる。水着のセンスもいい。

 自分のよいところを引き出す術を、知っているのではないか。


 もしかすると、僕はかなりとんでもない人たちを仲間にしてしまったのかも知れない。


「まさか、試験休みがこんな余興で潰れるなんて」


 悪態をついて現れたのは、聖城先輩だ。


 彼女においては男子からも女子からも歓声が上がった。


 なんと、先輩の水着は今年流行のレトロワンピースだ。

 青と白のストライプで決めている。

 三年生組が近いタイプのワンピースで揃えているところを見ると、友人達に選んでもらったのだろう。けれど、まんざらでもない様子。本当にイヤなら、そもそも参加しない。

 カタブツのイメージがあった聖城先輩だが、一番水着に気合いが入っている。

 案外一番このゲームを楽しみにしていたのかも知れない。

 

 番組研全員が呆気にとられてしまっている。

 当然だ。僕でさえ、先輩はスク水で来るだろうと考えていたのだから。


 二年生側に、クイズ研部長である僕の姉が。

 姉は色気のないスクール水着だ。ギャラリーにサービスする気はないらしい。今回の姉は目立とうとせず、スタッフに徹している。それがかえって、聖城先輩を目立たせていた。あくまでも聖城先輩が主役であるという、姉なりの判断だろう。

 

「こ、これしか、なかったの!」


 珍しく、聖城先輩は顔を赤らめている。

 

「あれー? でもタグが付いてますよー?」


 やなせ姉がからかう。


「バカな。前日、ちゃんと外したのに!」と、目を丸くして、必死にタグを探す。


「タグなんて付いてないじゃないの!」


 煽りのプロか、やなせ姉は。


「ひょっとして、浮かれてます?」

「浮かれてなんか!」


 やなせ姉の挑発に、聖城先輩は抗議する。


「はいはい。じゃあ、そういう事にしておきます」

「ちょ、待ちなさい!」


 去り行くやなせ姉を追うが、責められている側は相手をしない。

 

 なんだかんだ言って、やなせ姉だって、先輩を本気で嫌っているわけじゃないのだ。

 色々と蓄積した感情が爆発した程度なのであって。


「やなせ姉さあ、聖城先輩をわざと煽っただろ?」


 ゲームを有利に進めるためではない。先輩に楽しんでもらうためだ。

 先輩に、そのような自覚があるかどうか挑発して試したんだ。



「うーん、お姉さんわかんないなー」


 場を乱す小悪魔は、あくまでも白を切る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る