第七問 甘酒は、夏の季語である。○か×か? ~僕たちの行く末は、○×なんかでは決められない~

決戦は泥んこ○×クイズ!

 僕たち番組研と聖城先輩との決戦は、期末テスト明けの休み期間中に執り行われることとなった。


 舞台は、来住家の所有するプライベートビーチだ。ゴルフ場やキャンプ場などのレジャー施設や、大浴場が自慢の旅館などがある。


 このときばかりは、やなせ姉の常人離れした財力に感謝せねばならない。その代わり、僕は残りのテスト休み期間、ずっとやなせ姉のペットにならなければならないが。


 期末試験までの間に、参加者を募った結果、結構な数の生徒が集まった。

 

 僕達を乗せたマイクロバスが、目的地に向かう。

 高速道路を抜けると、山道や海が目立つようになっていった。まるで、一足早い修学旅行へ行くみたいだ。


 僕の隣には嘉穂さん、正面にはのんが座り、嘉穂さんの対面に湊が。僕の後ろの席からやなせ姉が腕を伸ばして、僕の首に回している。


「みんなに、報告があるんだ」


          ◇ * ◇ * ◇ * ◇


 実はあの後、旧友と電話で話したのだ。

 向こうから電話が掛かってきたとき、僕は驚いた。もう二度と話す機会なんて、ないと思っていたから。


 道は違うけど、クイズは続けている。今日行われるクイズの話も。


 僕がそう伝えると、旧友は、「逃げたわけじゃなかったんだな」とだけ言ってくれた。

「対、聖城頼子の攻略法は思いつかないぞ」と、彼は冗談交じりに言う。


「いいさ」と、僕も帰した。

 彼だって、僕の気持ちを理解してくれているとは思う。


          ◇ * ◇ * ◇ * ◇


 嘉穂さんは、自分の目指す道から逃げずに、一歩踏み出す勇気を僕に教えてくれた。


「ありがとう。みんなが言ってくれたから、僕はあいつと和解できたんだ」


「わたしは、何もしてませんよ」

「オイラだって、何もしてないぞ。心配はしてたけど。結局、しょーたが友達と仲直りしたいって気持ちがあったから、前に進めたんだよな」


 のんの言うとおりだろう。

 僕は、先輩と戦う前に、できるだけ過去のしがらみ、痼りは残しておきたくなかった。

 ちゃんと精算して次へ進まないと。


「ウチらができるのは応援だけだよ。最終的には福原が自分で解決したんだからさ」

「そうそう。キッカケは作ったかもワタシ達かも知れないけど、ワタシ達の力じゃないわ」


 みんなの言葉を受け止めて、僕は首を振った。


「そこきっかけすら、僕には作れなかった。それだけで、僕は前に進めた。だから、お礼を言わせて欲しい」

 僕は、みんなに頭を下げる。


「勝ちましょう。みんなで。それが、わたし達のクイズなんだって」


 自信たっぷりの笑顔を、嘉穂さんは見せた。



「さて、ここが、決戦の舞台でございます!」

 

 砂浜には、浅く四角い穴が作られている。穴は人が一人横になれるくらいに広い。

 穴へ泥が注がれていく。クイズ研の手によって、泥が砂と混ざり合う。

 砂が泥と融合して、ドロドロと粘度を増す。


「まさか、福原が出したクイズ形式が、泥んこクイズとはね」


 パーカーを脱いで、湊がセパレートの水着を露わにする。上はいわゆるタンキニ、下はデニムのショートパンツで露出は抑えられているが、この方が湊っぽくていいと思う。

 それにしても、出るところは出てるんだな、湊って。全然意識していなかった。学年で一番モテるっていうのも頷ける。


「楽しそうなのだ。○×なら運ゲーだからオイラにもワンチャンあるしな!」

 

 既に、のんは新型スクール水着姿でスタンバっていた。浅い泥プールができ上がる光景にワクワクしている。


「あの、やっぱり恥ずかしいです」


 覚悟が決まらないのか、嘉穂さんはバスローブを着たまま、顔を赤らめていた。


「だって、こんなにもギャラリーがいるなんて聞いてません!」


 今回も、生徒たちが観戦に来ている。全員が思い思いの水着を着用して、決戦を待ちわびているのだ。

 ちなみに、僕の衣装もトランクス型の海パンである。上には、水泳用のパーカーを身につけていた。


「そうは言ってられないでしょ。そおれっ」

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