最後の謎

「ではいよいよ、最後の問題となりました」


「えー」と、女性陣から力ないブーイングが。


「最後は、かなり難しいですよ。では来住さん、問題を読み上げてください」


◇ * ◇ * ◇ * ◇


 問題

 とある男女が、レストランで食事をしていました 

 メインディッシュを待っている間、女性の方が「暑いー」と言い出ます。

 その後、氷の入ったドリンクを五杯頼んで、一気に飲みました。

 

 男性の方は、じっくりとドリンクを飲んでいました。

 すると、男性は気分が悪くなり、そのまま死んでしまいました


 医師が調べると、コップの中には毒が検出されました。

 女性の方にもです。


 さて、どうして女性は無事だったのでしょう?


◇ * ◇ * ◇ * ◇




 僕は、壁のホワイトボードにも、同様の問題を貼り付ける。


「制限時間は、ございません。じっくり考えて解答をお出しください」


「分かったのだ!」


 最速で、のんがフリップを出す。


 早すぎだろ! まだ一分も経ってないぞ。

 しかし、彼女はこういった勘に頼る問題に強かったりするので、侮れない。

 

「ウエイターが犯人だった!」


 ブーと、不正解のブザーが鳴る。


「あのですね、このクイズなんですけど、犯人はいません」

「なん……だと?」

「正確に言うと、この問題は、『なぜ女性だけが生き残ったのか』を問うクイズなんですよ」


 したがって、誰が犯人かは考えなくてもいい。

 実は、いくら調べても「誰が犯人か」は説明がなかったのだ。

 多分、ウエイターかも知れないが。

 

「じゃあな、うーんとなー」と言いながら、のんが解答を書き直した。


「お腹を壊してトイレに駆け込んだから、死ぬのを免れた!」


 それも不正解だ。

 仮に犯人が女性で、コップの中に毒が入っているのが分かっているとする。

 飲んでしまったのなら、お腹を下さずとも、指を突っ込んで毒を吐き出せばいい。

 

「これ、当たったかもよ」


 自信満々に、湊がフリップを出す。


「キャンペーンで、生き延びられるのが女性のみだった!」

「女性だけが生き残るキャンペーンとか恐ろしいわ!」

「ただし美少女に限る!」

「限りません!」

 

「アハッハハハハハハハ!」


 ほら、嘉穂さんがゲラモードに入っちまったじゃねーか!

 机をバンバン叩いて、嘉穂さんは楽しそうだ。

 

 解答が出そろう中、嘉穂さんだけが長考状態に。


「津田選手、分かりませんか?」

「何か、ヒントが欲しいですねー」


 嘉穂さんだけではなく、全員の手が止まった。


「分かりました。では、皆さんにはブレイクしていただきましょう」


 やなせ姉が、プラスチックのコップに入ったドリンクを、机に配る。


 ジュースには、氷も含まれていた。



「みなさんには、さっきの心理テストで飲みたいと言っていたドリンクを買って参りました」


 買ってきたのは、ミス研のみんなである。


「わあ、うまそう! ありがとミス研! いただきます!」


 のんがコップを掴み、氷ごと中身を口へ放り込む。

 バリバリといい音を立てながら、満足げな顔を浮かべた。


「おかわり!」


 のんがジュースを要求する。


 他の二人は、くつろぎながらゆっくりとジュースに口を付けている。


「二人も、おかわり、いる?」


 ジュースのボトルを持ちながら、やなせ姉が湊に尋ねた。


「ありがとう。ごちそうさま」

「わたしも。おいしかったです」

 

 湊と嘉穂さんは、おかわりを断る。

  

 嘉穂さんの動きが止まった。


「そうか!」


 途端に、嘉穂さんが素早く手を動かし始めた。

 ホワイトボードを、机の前にドンと置く。

 

「毒は、氷の中に入っていました」


「お見事! 嘉穂さん正解です!」


 女性は早くドリンクを飲んだ。毒入り氷がコップ内で溶ける前に。

 だが、男性はゆっくりと飲んでいたため、毒が溶けてしまったのである。


「のんさんが、氷を食べて、湊さんのコップには水がたくさん残っていたので気がつきました」

「いやあ、見事な推理力でした! 総合優勝は津田嘉穂さんに決定! 今日からあなたは、FBI捜査官です!」


 本日のクイズは、これで終了だ。


「お疲れさまでした!」


 嘉穂さんが、みんなのコップにジュースを注いでくれた。


「ありがとう嘉穂さん、いただきます」


「福原、それ、嘉穂たんが使ったコップだよ」

「なぬ!?」 


 湊の発言を受け、ジュースを飲もうとした手を慌てて止める。


 手がガタガタと震え、コップの中に漣が立つ。

 ここまで動揺するなんて。


「ちち、違います! ご安心を!」


 嘉穂さんが「どうぞ」とてを差し伸べる。


「福原、なんか今ガッカリした?」

「いや、別に……」


 湊に尋ねられて、僕は視線をそらす。


「してくれたんですか晶太くん!?」


 嘉穂さん、なんで食い気味!?


「も、も、黙秘権を行使します捜査官殿ぉ!」



◇ * ◇ * ◇ * ◇


 翌日、ミス研がやってきた。


「ありがとう福原。おかげで女子も増えたよ」


 数名の女子部員が新規加入したという。


 僕たちも、やった甲斐があったというもんだ。


「でも、番組を見て簡単そうだという感想より、楽しそうという感想の方が多かったぜ。ロマンスを期待したヤツらが多いんだよな。で、オレらを見て『ないな』と思ったみたいだ。普通に部活をしているよ」


 加入者も出会い厨かよ!


(第四章 完)

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