「いとしのエリー」を最初にカバーしたのは誰?
正直、今日の収録は嘉穂さんのワンサイドゲームになるだろうと思っていた。
が、大方の予想を裏切り、名護湊が怒濤の追い上げを見せている。
ボケ解答だけでなく、博識な一面も覗かせ、場を盛り上げてくれた。
「ここで皆さんに報告があります。実は……次が、最後の問題です」
「なな!?」
「マジ!? ウチ聞いてない!」
今言ったからね!
「ということは、小宮山のんの優勝はなくなりました」
「うわー。そんなー。オイラのツチノコがー」
のんが頭を抱えた。まだツチノコを諦めてなかったのか。
だが、このメンツで一ポイントでも獲得しただけでも凄いと思うんだけど。
「答え続けていれば、何かあるかもしれない。ポイントを稼ぐのを諦めないで下さいね。では行きましょう、最後の問題です!」
いよいよ、残すところあと一問となった。
「さて、これが最後の問題です! 実は超難問の第一〇問! 来住先輩お願いします」
『ズバリ、サザンオールスタースの名曲、『いとしのエリー』を世界で最初にカヴァーした、外国人のシンガーは?』
さっそく、小宮山のんが『食いついた』。
「え、簡単じゃん。何が難しいのだ?」
「お答えをどうぞ」
「レイ・チャールズだろ?」
ブブーっと、不正解の音が。
「えーっ!?」と、小宮山のんが良いリアクションをしてくれた。
これには、湊も止まってしまう。ボタンを押そうとしたのか、手を上に上げたまま固まっている。
「と、思うじゃん。誰だって思うだよ。レイ・チャールズだって。でも違うんです」
「ヒントくれないかな?」
「ではヒント。カヴァーされた年は、一九八三年です。カバーをしたライブがレコードとして発売されたのが最初と言われてますね」
ちなみにレイ・チャールズがカヴァーした年は、一九八九年だ。
一応、最初にカヴァー曲として『販売』されたのは最初である。
けれど、カヴァー自体を最初に行ったのは別の人物なのだ。
「今いくつでしょう?」
「七〇歳越えてます」
「あっ」とボタンを押して、湊は後悔したような顔になる。
「だめだ。ジミー・クリフじゃないや」
「はい。不正解です」
結局、誰からも解答が出ず、時間切れとなった。
「では来住さん、正解の方を」
『正解は、オーティス・クレイさんです』
三人ともポカンとしている。答えを聞かれても、意味が分からないといった風に。
それもそうだ。あまりにも知名度が低いのだから。
「わかりませんでしたか。そう思ってました」
三人は、ハテナマークが浮かんだように、口を開けていた。
「実はですね、この問題、クイズ研究部にも答えていただいたんです。全員に」
「何人正解したんだい?」
「それが、ゼロ人だったんです」
質問した湊を含め、クイズ研の面々が唖然とした顔になる。
つまり、クイズ研究部の総力を挙げても、誰一人として答えられなかったのだ。
特に部長が答えられなかったのが秀逸だった。『積年の恨みを晴らした』気分とはこのことを言うのだろう。
みんなが答えられないのも無理ないかな、と思った。
とはいえ、これではクイズ研としていることが一緒だ。
難問で相手を打ち負かすことなど、僕たちが望むものではない。
クイズとは楽しいものだ。どこかに楽しさがなければ、絶対に廃れてしまう。
「と、いうわけで、泣きの最終問題です。このままでは終われないですよね? なので、これが本当の最終問題と致します! 来住先輩読み上げよろしく!」
『では、オーティスクレイ版「いとしのエリー」では、「エリー、マイラブ、ソー、スイート」の「スイート」の部分を、何と歌っているでしょう?」
やはり、こういうときに最も早く手が動くのは、のんだ。
「小宮山のんが来た! これで正解なら逆転して二位に入ります。さて答えは?」
「ソー……ハニー?」
「違います。はい。次にボタンを押したのは、名護湊さん。お答えは?」
首をかしげながら、湊は、「エンジェル?」と答えた。
「不正解、なぜそう思った?」
「いやあ、『マジ天使的』な意味で」
僕は思わず口元を手で押さえてしまう。
「っぽいですけどねー。違うんです! でも惜しい!」
「惜しいなら、これですぅ!」
ここで、嘉穂さんがボタンを押した。
「はい、これで決めるか、津田さん、お答えをどうぞ!」
「トゥルーッ!」
「大正解です。お見事でした!」
ファンファーレが鳴り響く。
第一回、クイズ番組研究会は、見事、嘉穂さんが優勝した。
「いかがだったでしょうか、クイズ番組研究会、それでは、第二回でお会いしましょう! ご視聴ありがとうございました!」
「OK」という西畑の声で、全ての収録が終わる。
これにて、番組は無事終了を迎えた。
放送部と共に教室を片づけ、お開きとなる。
「お疲れ様でした」
僕の呼びかけに、四人が「お疲れ様でした」と返す。
番組の最後に、『いとしのエリー』を聴いてもらった。
オーティス・クレイ版だ。
「長い」と湊に言われて途中で切ってしまった。
一三分もあるからね。
夕暮れの坂道を、番組研のみんなで歩いて帰る。
「それにしてもさ、福原ってえらい辛辣なんだね。クイズ研究部の部長にに対してさ」
湊の言葉に言い返せず、僕は口を紡ぐ。
「いくら津田さんに対してセクハラしたってさ、結構ひどいよね。何か、個人的な恨みでもあるわけ?」
「そりゃあ、もう。語り出したらラノベ二冊分にはなるんじゃないかな?」
大げさに聞こえるかも知れないが、実際はそれくらい闇が深い。
「そんなに古いお付き合いだったんですかぁ?」
意外だという表情が、嘉穂さんの顔に浮かぶ。
「はい。嘉穂さんに嫌がらせした後、家に帰ってからも大ゲンカですよ」
もう数日は、まともに口を聞いていない。
「え、え、晶太くん、ちょっと待って下さい。どういう意味なんですかぁ?」
何をどう見当違いをしているのか、嘉穂さんは手をワタワタとさせて、困惑してらっしゃるようだ。眼もグルグルさせている。
「ひょっとして晶ちゃん、何も話してないの?」
やなせ姉が首をかしげた。
そっか。説明するの忘れてたや。
「説明して下さい、是非!」
「言うまで帰さないからね」
嘉穂さんと湊にマジマジと見つめられる。
「クイズ研の部長は、しょーたの姉貴だぞ」
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