津田嘉穂のゲラ属性
「あれ、津田選手、どうされました?」
心配になった僕は、嘉穂さんに歩み寄る。どこか具合が悪くなったのなら、保健室へ連れて行かないと。
「嘉穂さん、平気?」と、手を差し伸べる。
手を挙げながら、嘉穂さんは「大丈夫」と言う。しかし、腹を抱えたまま、引きつった声を上げていた。
「フ、フフフフフフゥ! ハハハハハハ!」
笑っている。嘉穂さんはなにがおかしいのか、口を押さえながら笑いを堪えていた。しかし、我慢できず吹き出してしまったらしい。
「アハハハ、ハアー。すいません。もう収まりますので」
口角が上がりきって、声を抑えられず、ヒザが崩れ落ちる。
「何があったんだ、嘉穂さん?」
「いや、あの、のんちゃんさんの、くしゃみが、ツボに……」
どうやら、のんがくしゃみをして偶然正解したのが余程面白かったらしい。
「どうにか笑いが落ち着いてきましたぁ」
数分後、嘉穂さんが落ち着いたところで、続いてはこの問題。
『料理の問題です。第六問。発祥の地は、スイスのヴァレー州。「削り取る」という意味を持つ持つこの料理は?』
料理ができないのに、のんが真っ先にボタンを押した。
立て続けにボタンが押された。今度は湊だ。
「はい、湊さん。答えをどうぞ」
「えっとー。チーズの断面をドローって溶かしてさ、パンかジャガイモだったっけな。つけて食べるやつあるじゃん? えーっとぉ……」
答えが出ずに、タイムアップ。続いて、のんがボタンに手をかけた。
「チーズ・フォンデュ!」
「不正解です。チーズ・フォンデュではありません」
チーズ・フォンデュはスイス料理。白ワインで溶かしたチーズだ。
「そうなのか。TVで見たんだけど。あー正式名称が出ないな。あっ!」
ボタンを押して、湊はカメラに向かって手を独特の形にして突き出す。
「思い出したんですね、では正解をどうぞ!」
「ラクレット!」
カメラに向かって、湊がドヤ顔を決める。
ようやく湊が正解を出して二ポイント目を獲得。
『第七問。お笑い芸人で始めて芥川賞を獲得した、ピース又吉さんの小説のタイトルは――』
「おっと早かったのは、小宮山のんだ!」
「うん? 『火花』だろ?」
自信満々でのんが答える。
しかし、不正解のブザーが空しく鳴った。
「なんでだ!?」
「さすがに、それは分かったようですね。ですが、問題を最後まで聞いて下さい」
「しまった! 引っかけか!」
わかりやすいリアクション、どうもありがとう。
『では、又吉さんと同時に受賞した、
湊が素早くボタンを押した。
「わかんないなあ。じゃあ……ねえ。いなくなれ……福原!」
それは『いなくなれ、群青』。芥川賞候補じゃなくて、本屋大賞一位の作品だ。
「ていうか、へこむわ!」
立て続けにボタンが押される。
「はい小宮山選手」
「えっとねえ、晶太よさらば!」
当然、不正解のブザー発動。
「それ、ヘミングウェイの『武器よさらば』って言おうとしたよね!?」
「そうとも言う」
「芥川龍之介と同時期の作家じゃねえか!」
だから、へこむわ!
「はい。ここで津田さんがボタンを押した。正解が出るか。お答えは?」
「えっとー。『福原、部活やめるってよ』?」
「へこむわって! なんで嘉穂さんまで!?」
「嘘でーす」と、嘉穂さんが照れ臭そうに言う。もう一度ボタンに手をかけた。
「『スクラップ・アンド・ビルド』です」
「その通り! ここで津田嘉穂選手が名護湊選手を引き離す!」
『第八問。奈良時代後期、
優勝の線が消えたのに、のんがボタンを押した。
「おっと、小宮山のんが悪あがきだ」
「これはねぇ……トイレ!」
キリッと決め顔で微笑むが、不正解。
「違います。続いて、名護湊さんがボタンを押す。正解は?」
「ハッテン場」
「放送できねえわ、そんな問題!」
続いて、嘉穂さんが「博物館でしょうか?」っと解答するも、不正解となった。
続けざまにボタンが押される。
「また名護湊が来た。答えをどうぞ!」
「案外、図書館だったりして」
僕は目を大きく見開いた。
正解のチャイムが鳴り響く。
この問題も、
「どうでしょう、津田嘉穂さん。とうとう一点差にまで追い込まれましたが」
「場の空気に押され気味ですぅ」
やはり、初戦で緊張したのだろうか。
『第九問。世界最古のピラミッド、ジェゼル王のピラミッドを建造し、死後はギリシャの医神アスクレーピオスと同一視された、歴史上の人物は誰でしょう?』
膠着状態が続く。
のんがボタンを押した。
「ツバス!」
「くしゃみすんな!」
「アハッ! ハハハハハハハハ! ヒィイ!」
また、嘉穂さんがツボに入ってしまった。
その間、誰かが解答するかと思われたが、膠着状態になる。
「難しいのだ!」
頭を抱えながら、のんがボヤく。
「はい。ちょっと難しいかもしれません」
「ヒント下さい。ヒント」
「うーん。映画通なら、名前だけは聞いたことがあるかも知れないかな?」
ここでボタンが押された。湊の席でランプが光る。
「わかんない……イムホテプかな?」
「名護湊選手、正解です!」
「いやいや、たまたまだって。映画はよく見るから」
「これで両者また並んだ! 盛り上がってきました!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます