新番組! クイズ番組研究会!

――以上が、クイズ番組研究部発足までの流れだ。


 まず第一問は嘉穂さんが一点を先取し、次の問題に入る。


『はーい第二問でーす。第一三回アメリカ横断ウルトラクイズで優勝したのは、長戸ながと 勇人はやとさんです。では、長戸さんが優勝賞品として所得した、日本人初の権利とは、何でしょう?』


 いかにも、クイズ番組研究会といった内容のクイズを、序盤に持ってきた。


 ポーン!と、早押しボタンが力強く押される。


「早かったのは、小宮山のん!」


「うーん。不老不死?」


 不正解のブザーが鳴る。


「残念、違います。けど、近いよそれ! 超近い!」


 実際答えに近いから驚いた。


「不老不死が近いんだよね?」と、湊がボタンを押した。

「続いて名護選手に解答権が移りました。さあ、お答えは?」

「ゾンビになれる権!」


 不正解のブザーと同時に、僕はピコピコハンマーで湊の頭を軽く小突く。心地よい笛のような音が、よりコミカルさを演出する。


「なれるかっ! 製薬会社と契約してんのか!」


 最後にボタンに手をかけるは、嘉穂さんだ。


「人体冷凍保存の、会員、でしたよね?」

「せいかーいっ!」


 正解を示すチャイムが鳴った。


『第三問。一五五二年、宣教師コスメ・デ・トーレスの手によって、日本で初めて祝われた記念日といえば?』


 湊がボタンに手をかける。


「来ました。ここで名護湊さん、お答えは?」

「性の六時間」

「うわあ! 近い! 近いんです! 実は近い!」


 不正解のブザーが鳴ったが、正解にしてもいいくらいなのだ。そこまで迫っている。


「あれ? 完全にボケたつもりなんだけど。答えに近いならもういいや」


 ボタンから手を離し、湊は僕から視線をそらした。


「なんで答えるのやめちゃうんですか!?」

「ボケたいんだよ」


 意味わかんねえ!


 ちなみに、このクイズ番組は、お手つきや誤答によるペナルティは一切ない。減点や一回休みなどと言うルールはなし。一人でいくらでも答えていい。グダグダになるが、むしろそれが狙いだ。


「もう、正解言っちゃって下さい」


「だとしたら、クリスマス?」


 ようやく、湊が正解を出す。


「そんな時代から、クリスマスって祝われていたんですね。ロマンチックですぅ」

「ということはさぁ、津田さん、意味が分かってるんじゃないのかい?」

「いえいえ違います違いますっ!」


 笑顔を見せながら、嘉穂さんが手をバタバタさせて取り乱した。やや下ネタが入っていたが、嫌がってはいないようだ。湊がしつこく追求しなかったからだろう。


「ボケないと面白くないのでは?」

「競ったところで、ボケるのが面白いんじゃん」


 湊なりに、クイズ美学があるらしい。知らんけど。



「えー、湊選手が一ポイント獲得です。ここまでで、津田さん二点。湊さんが一点。のんはポイントなし。では、第四問」


『日本で最初にミニスカートをはいた人とされる女優は――』


 湊がボタンを押す。「うん。野際陽子だよね?」


 そう。さっき自分で言った答えだ。しかし、ブーっとブザーを鳴らす。


「はい。野際陽子さんですが! で・す・が!」


 僕は身を乗り出して、眼鏡を外して湊の机に膝を立てる。


「ああ、問題を潰しかけたから、怒っているのだね?」

「はい!」


 まったくその通りである。正確には、問題を潰されたので、差し耐えたのだ。


『では、同年にミニスカートをはいて歌謡番組に出演した国民的歌手は?』


 ポーンと軽快な音が鳴った。


「はい湊さん、どうぞ」


「村田英雄!」


 僕は、マイクを投げ捨てそうになった。


「はああああ!? あんた、マジか!? 男やないかい!」

「いや、わかんないって」

「わかりますよ! ありえねーよ!」


 このようなやりとりを繰り広げる中、嘉穂さんがボタンを押す。


「美空ひばりさんっ」

「その通り!」

「ちなみに、司会の福原君は私のミニスカ姿に夢中です」

「知らねえよ!」


 この問題で、嘉穂さんが三点目を獲得する。


『第五問。出世魚、ブリの稚魚。関東ではワカシ、東北では――』


 問題が終わる前に、嘉穂さんがボタンを押す。


「ツベですぅ」


 だが、無情にも不正解のブザーが鳴る。


「はい、東北ではツベといいます。で・す・が! はい来住さん続きを!」


 珍しく、嘉穂さんが頬を膨らませた。こんな表情もするんだな。


『では、関西ではツベを、何というでしょう?』

 

 バン、と凄まじい音がした。のんの机からだ。


「早かったのは小宮山のん。正解は?」


「ツバス!」


 前のめり気味で、のんが解答を叫ぶ。余程自信のある問題だったらしい。


「正解! ようやくのんがポイントをゲットした」


 これが正解を取るから、のんは恐ろしい。変なところで知識が偏っているのだ。


「いや、今の、くしゃみだったんだけど」

「くしゃみかよ!」


 僕がツッコもうとも、のんはマイペースにポケットティッシュを出して鼻をかむ。


「ここで番狂わせとなるか? 次の問題! 津田嘉穂さん三点、名護湊さん一点。それを追う小宮山のんさん……あれ、津田さん?」


 湊が嘉穂の方角を指差す。


 ボタンに手をかけたまま、嘉穂さんが微動だにしない。


 そうか、悔しがっているんだ。正解が分かっていたのに、のんのくしゃみの方が早かった。くしゃみに負けるなんて、といった複雑な表情を浮かべている。


 そう思っていたのだが、どうも違うらしい。腹を押さえたまま、嘉穂さんがピクリとも動いていない。

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