練習問題 「騙し絵の牙」の表紙になっている俳優は?
収録当日、僕は親友の
「悪いな、慶介」
慶介は放送部員で、力仕事担当だ。
「いやいや、お前とクイズ番組やれて嬉しいぜ、俺は」
息を合わせて、机を所定の位置に置く。
中学時代から知り合いで、学園クイズ目当てに、二人してこの学園を受験した。
「どっこいしょ」と机を降ろす。
解答者を座らせる前に、僕が席に着いた。
席には、赤いプラスチックのカバーが掛けられたボタンと、パトランプが人数分設置されている。これがいわゆる早押し機だ。
「よし晶太、早押し機チェックするぞ」
僕は席に座って、ボタンを押す。
「ポーン」と音が鳴り、パトランプが点灯した。
他の席のボタンも問題なく動作している。
これでチェックは完了。
「どうだ晶太、番組研とやらは? どうせ男ばっかりだと思うが。部員が足りないんなら、俺が部を兼任してやってもいいが」
マッチョな胸板を見せびらかすかのように、慶介が親指で自分を差す。
「ああ、それなんだけどね……」
コメントに困っていると、のんが入って来た。
「おーす、しょーた。おう、西畑じゃん」
「ああ、のんが入部したのか」
「そうなのだ。オイラの力が必要らしい。というわけで西畑、よろしくなー」
誰もそんな事は言っていないんだが。
「よろしくお願いします。西畑くん、晶太くん」
嘉穂さんが続く。
「元気そうだな、津田さん」
「ああ。僕もホッとしているよ」
嘉穂さんの事情を知っているだけに、西畑も心配していたらしい。
「えっと、ここでいいんだよね?」
「うふふ、楽しみね、晶ちゃん」
最後に湊とやなせ姉が入ってくる。
「おい晶太、どういう事だ?」
ひがみを隠そうともしないで、慶介が僕を見下ろす。
「何が?」
「何がじゃねえ。なんで番組研は女ばっかりなんだよ!」
僕の肩を揺らしながら、慶介が抗議する。
「そんなの知らないよ。言い掛かりだ!」
「いいなー、お前ばっかり。マジで羨ましい」
「言っておくけどな、僕とあの人達はお前が思ってるような不純な関係じゃないからな!」
「のんはどうなんだよ? 幼馴染みだろ?」
「中学の同級生ってだけだ!」
ムムム、と唸って、慶介は納得しない。
「ん? オイラがどうかしたか?」と、のんが反応した。
「別にどうもしないよ」
「おう、そっか」と、のんは問題集を広げ、予習を始める。
「だったら、なんで名護さんは、お前と親しくしてるんだよ。学校一の美人だって噂が立ってる女子だぜ? 何かあるんじゃねーのか? お前に弱みを握られてるとか」
マジか。そんな噂が立ってるなんて知らなかった。
「あり得ないよ。普通普通」
手を振って誤解を解く。
「最近、津田さんともいい仲だって聞くぞ。しかも、津田さんなんて、お前のこと、下の名で呼んでたぞ!」
「それこそ言い掛かりだ。津田さんが僕に好意を持ってるわけないだろ! よく考えろよ」
「でもお前さぁ、津田さんの事、助けたじゃん」
「単に助けただけだ! それ以上の関係になるなんてないよ」
「まあ、そりゃあそうだな」
ここで納得するのかよ。
「来住さんは……何でもねーわ。来住さんがお前を好いてるわけねーもんな」
これは同感だ。あの人は僕をペットかオモチャとしか思っていないから。
空き教室に三つ、勉強机が用意され、嘉穂さん、のん、湊の順で座る。
問題を読み上げてくれるやなせ姉が、出題者側の長机に着席。
撮影機材も人員は、放送部がすべて貸してくれた。
やなせ姉の人脈さまさまだ。
「これより、早押し機がちゃんと作動するか、リハーサルを行います。皆さんは、ボタンに手を置いて」
僕が言うと、嘉穂さん、湊、のんが、ボタンに手をかける。
やなせ姉に合図を送る。
『問題 英語で探偵はディテクティブ。では、スパイはなんというでしょう?』
早かったのは、嘉穂さんだ。
「オペラティブ!」
僕は、正解のブザーを鳴らす。
「はい、津田選手正解」
『問題 不特定多数の人が通常インターネット経由で他の人々や組織に財源の提供や協力などを行うことを指す、「群衆」「資金調達」を組み合わせた――』
「クラウド・ファンディング!」
またも、嘉穂さんが正解。しかも、問題の途中で答えた。
その後も、嘉穂さんの勢いは止まらない。
早押しになると、嘉穂さんの魅力が跳ね上がるなぁ。
『問題 テレビドラマにもなった漫画作品、「逃げるは恥だが役に立つ」の作者は?』
戸惑った様子で、湊が「海野つなみ?」と答えて正解。
嘉穂さんの手は動かず。
「ハンガリーって答えようと思ったんですけど……」
えへへ、と嘉穂さんが苦笑いをする。
確かに、漫画のタイトルはハンガリーのことわざだ。
『問題 二〇二一年三月に劇場公開される、塩田武士の小説「騙し絵の牙」にて、主人公になっている、実在の俳優は?』
これは、のんが素早く飛びついた。
「大泉洋!」
正解だ。本作は、大泉洋を主人公にして書かれたと話題になった。
「よく知ってたな、のん?」
「マンガを買いに行ったら、本屋さんで平積みしていたのだ」
ふふーん、とのんが鼻を鳴らす。
「じゃあ本番入りまーす!」
慶介がカウントを指で数え始め、僕は司会者モードに突入した。
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