笑顔で和解

 問題を差し替え、番組を続ける。

 やなせ姉が、木の写真を出す。

 

『次の問題です。日本では「フェニックス」と呼ばれている、この木の正式名称は、何?』


 のんは普通に「ヤシの木」と書いた。当然不正解である。

 嘉穂さんが「カナリーヤシ」と書いて正解だ。

 湊は「富田林」と書いた。いや、富田林市にフェニックス通りってあるけどさ!

 姉さんがしまったという顔になる。答えが一緒だったようだ。


「あんたら、何で息を合わせるようにボケ合ってるんだよ!」


 湊と姉さんの頭にピコピコハンマーを打ち込む。


 その後、湊は水を得た魚のようにボケまくる。


 姉さんも張り合うように、湊とボケ回答合戦を繰り広げた。


 その度に、嘉穂さんの笑い声が溢れ出す。

 その笑いが実に楽しげで、その明るさが周りにも伝染していく。



「というわけで、なんと! 小宮山のん選手、初優勝です!」


 

 勝負は結局、軍艦の問題で大きくリードしたのんが、そのまま勝利を収めた。


「やった!」と、のんが勝利のガッツポーズを決める。


 商品として、のんには○×どらやきの割引券が授与された。


「このメンツでトップってすごいのだ!」

「おめでとうございます!」

「しょーたとの特訓が実ったのだ! ありがとうなのだ!」


 勉強したところ、一問も出ていないけどな!

 

 他のメンバーから、温かい拍手が送られる。


 しかし、そんな勝負なんて、嘉穂さんにとってはどうでもよくなっていたと思う。



 収録が終わり、安堵した空気が漂う。

 お腹を抱えながら、嘉穂さんが笑顔を見せる。


「きょ、今日はすごく笑わせてもらいました。楽しかったです」

「こういうのをお望みなら、もっと出てもいいよ」

「是非お願いします」

 

 あれだけ姉さんを怖がっていた嘉穂さんから、そんな言葉が出るなんて。

 もう、嘉穂さんは姉さんに怯えなくなったらしい。


 緊張がほぐれたのか、嘉穂さんは昌子姉と普通に会話している。

 その光景を見て、番組研とクイズ研の間に、不思議な連帯感が生まれた気がした。

 嘉穂さんと姉さんの仲も、少しはマシになったと思いたい。


「ところでさ、嘉穂さんはどうして、姉さんと仲良くしようと思ったの?」


 確か、嘉穂さんが言い出したんだっけ。そんなに急ぐ事だったのかな?


「ふえ!?」


 何があったのか、頭のてっぺんから湯気が出るほどに、顔を赤らめた。


「うーん。なーんでーかなーっ?」

「なんででしょうねー。晶ちゃあん。お姉さんは教えないぞー」


 湊とやなせ姉は、思わせぶりなセリフを吐く。


「しょーたはやっぱりアホだな」


 三人からツッコまれ、僕は首をかしげる。

 

「それはそうと、嘉穂ちゃん、今度ウチに遊びにおいでよ」


「はあ!? 何言ってるの姉さん!」


 僕がたしなめると、姉さんは横目で僕を見た。


「あれーっ? 誰もあんたの為に誘うなんて言ってないんだけど? 嘉穂ちゃんだけ呼ぶなんて言ってないし」

「ウチもいいの?」


 湊が姉さんに言質を取る。


「いいよ。いつでもおいで」

「よっしゃ。一緒にお笑い談義しましょう」

「それより面白い物があるよ」


 いやらしい笑みを浮かべる姉さん。

 

「たとえば晶太の全裸写真とか」


 僕の全裸写真を披露とか、拷問か!


「調子に乗るなよ、姉さん!」

「心配ないって五歳くらいの時の写真しかないから」


 そうじゃないと大問題になるよ!


「全……」


 しかし、ガタッと言わんばかりに嘉穂さんが硬直する。


「お? 嘉穂ちゃん、やっぱり興味ある?」


 姉さんの質問に、嘉穂さんは鼻息を荒くした。

 

 なぜだ?


(第三章 完)

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