正しく答えろクイズ!

「さあ、始まりましたクイズ番組研究会! 今回はクイズ研究部の部長との対決です!」


 問題形式は、この間と同じフリップ問題だ。解答をホワイトボードに書いてもらう。


『最初の問題は、偉人の名言シリーズでーすっ』

 

 やなせ姉がフリップを出す。


「では参ります。よろしいですね? では来住先輩、問題をどうぞ」


『問題。イギリスの登山家ジョージ・マロリーの名言といえば『そこに山があるから』が有名ですが、その山とは、何を表しているでしょう?』

 

 スケッチブックに水性マジックで字を書く。マジックのこすれる音だけが、スタジオに鳴り響く。


「さて、皆さん書き終えましたね? では、回答オープン!」


 嘉穂さん、のん、姉さんは「エベレスト」と書いて正解。

 湊だけが「高尾山」と書いて不正解。


「イギリス人ですよ! とろろそばでも食いに行くのかよ!」


 だが、こういったフリップ問題は、ボケ要員の本領発揮だ。まずはウォーミングアップと言ったところか。


 こっちだって、それを見越して易しめの問題を提供した。


 湊も数回優勝してるから、今日は最下位になってもいいくらいに全力でボケ倒すに違いない。

 気を取り直して次の問題へ。


『旧ソビエトの宇宙飛行士、ユーリイ・アレクセーエヴィチ・ガガーリンの名言といえば、「地球は青かった」。では、続きは何と言ったでしょう?』

 

 これは結構有名かも知れない。

 小宮山のんの回答は、『火星は茶色かった』。まあ、そうだろう。


「では、湊さん、書いた答えをお出し下さい。どうぞ」


 僕が合図して、湊がボードを出す。


『いやー、今週号のマンガ雑誌、置いてなかったわー。「新劇の阪神」の最終回が載ってたらそりゃ買っちゃうよねー』


「コンビニか!」


 続いて嘉穂さんの答え。


「はい。『だが、神はいなかった』でした。お二人とも正解です」


 さすがに、嘉穂さんと姉さんは抑えている。

 次の問題だ。


『フランスのファッションデザイナー、ココ・シャネルの名言です。「優しさに包まれてする仕事なんて、本当の仕事じゃない。○○があって、はじめて仕事ができるのよ」。この○○を埋めて下さい』

 

 これは、さすがに姉さんも考え込んだ。

 嘉穂さんも、答えが出てこないみたいである。

 のんは早々と書いた。


「はい『お金』、もっともらしいが不正解」


 湊が書き上げる。


「男……ココ・シャネルって、そういうタイプの女性なんでしょうかね?」


 ちょっと違う気がするが。


「嘉穂さんが書き終わった。『笑顔』。ああ……」


 残念、不正解だ。僕は嘉穂さんの席に手を置いてうなだれる。


「続いてクイズ研究会部長、解答どうぞ」

 

 姉さんが出した答えは、『怒り』。


「お見事! これでクイズ研究会が一歩リードです!」


 とうとう、リードされてしまった。

 僕は司会者なので、公平を期さねばならない。しかし、内心はドキドキだ。


「続いては、難読文字シリーズです。何と読むのでしょうか?」


『以下の漢字はすべて、軍艦の名前です。呼び方をお書き下さい。分かる範囲で結構です。なお、全部で一〇問。一つにつき一問、正解と致します。問題はこ、ち、らっ』

 

 やなせ姉が、フリップを見せる。


『漣、愛宕、川内、矢矧、江風、子日、酒匂、秋津洲、Верный、Z1』


「Zの1!?」


 嘉穂さんから、予想通りの反応が返ってきた。


「すなまい、ロシア語はサッパリなんだ」

「漢字だけじゃないのか?」


 湊と昌子姉さんが同じリアクションをする。


 やはり、出題が漢字だけだと思っていたようだ。

 頭を抱えながら、全員がたどたどしくスケブに解答を書く。みんな一様にペンが止まる。やはり、みんな自信なさげだ。

 

 ただ一人、のんを覗いて。

 

 回答をオープンする段階で、僕は言葉を失う。

 のんの解答は、以下の通りだ。


さざなみ


愛宕あたご


川内せんだい


矢矧やはぎ


江風かわかぜ


子日ねのひ


酒匂さかわ


秋津洲あきつしま


Верныйベールヌイ


Z1レーベレヒト・マース


「あーっとお! 小宮山選手、なんと全問正解! お見事です!」


 解答者の席を見ていたが、みんなが悩みながら書いている中、ただ一人、のんだけがスラスラと書いていた。こいつ、そんな知識あったか? カンニングの形跡も見られないし。


「これはわかったのだ。オイラの兄貴がゲームやってるから覚えてしまったのだ。寝言で『瑞穗が出ない』ってうなされていたのだ」


 そういえば、こいつの兄貴は超ゲーマーだったな。


「嘉穂さん。六問正解。秋津洲はなんとか読めたようです。最後のZ1ですが……あー、ゼットワンね。残念です。それは軍艦じゃなくてバイクの名前です」


 これがくるだろうと思っていた。誰かが引っかかると思ったのだ。


 続く湊も、五問しか正解できていない。

 僕の狙い通り、「川内」を「かわち」、「秋津洲」を「あきつしゅう」と書いていた。「Z1」に到っては「ぜろわん」とか書いているし。


 姉さんは「レーベレヒト・マース」はわかったようだが、「かわかぜ」が読めなかったので六問正解。


 当然、のん以外の三人は、ベールヌイとレーベレヒト・マースは読めなかった。


 まだ、嘉穂さんと姉さんの差は埋まらない。

 しかし、のんが一〇ポイントゲットしたので、姉さんと並んでいる。


「さて、続いては、正式名称問題です。来住先輩、まずは例題を」


『これの正式名称を答えて下さい。口答で結構です』


 やなせ姉が、机の上に置かれた緑色のプラスチック商品を摘まむ。弁当の仕切りをする時に使う。


「これは、バランですね?」


 皆も口々に「バランだ」と答える。全員正解だ。もはやバランは一般常識か。 


「こういう感じで出題しますので。では、問題です」


『こちらにある掃除道具の正式名称は、何というでしょう?』


 やなせ姉が机の下から取り出したのは、トイレ掃除道具だ。ゴム鞠を半分に切った物が先端に付いている。いわゆる「スポスポ」である。


 のんはそのまんま「スポスポ」と書いて不正解となった。


 湊は「詰まりを取ろうとしたけど使うと余計詰まってしまう器」という長ったらしい名称を書いてこれまた不正解。


 嘉穂さんと姉さんは「ラバーカップ」と書いて正解を出す。


 その後、のんは立て続けに正解し続け、リードを広げた。

 のんが未だリードという異常事態のままである。


 だが、変化は唐突に訪れた。

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