第30話 悪夢
動けないアデルをじっと見下ろすラフム。
奴は何をするでもなく、ラフムはただ静かに横たわる彼を眺めていた。
まるで彼の顔を確かめているかのように静かにゆっくりとラフムは赤く妖しく光る瞳を近づけていく。
補食をするためなのか、動かない彼を認識出来ていないのか、それは定かではないが襲うわけでもないラフム。
「うっ……」
痛みによるものか、苦しそうに呻き声を上げた彼を見たラフムは赤い瞳を遠ざけると体から触手を伸ばし、アデルをゆっくりとまるで抱き上げるかのように触手を使って持ち上げる。
その刹那、小さな音が鳴った後で巨大な爆発が起こり、ラフムの胴体を焼き焦がす。
次々とロケットランチャーが撃ち込まれ、ラフムは大きな金属音にも似た寄声をあげるとアデルを離し、その場を離れていった。
◇
―……ここはどこだ?
暗い暗い空間。
まるで宙にでも浮いているかのような、温度の感じない水の中に沈んでいるかのような浮遊感の中
「ア…アーデ……」
――何か……聞こえる……?
ボンヤリした声が聞こえてくる。男のものなのか女のものなのか分からない声。その声の主を見つけるためにアデルは閉じていた瞳を開け、手を降り、何かを掻き分けるようにしながら周囲を見渡す。
――あれはアルマ……なのか?
暗闇の中、ボンヤリと光るその先に見えるのはアデルの妻であるアルマ。紛れもない彼女の姿だった。
――アルマ! アルマ!!
叫んでいるはずなのに自分の声が聞こえてこない。しかしそれでも彼女には声が聞こえていると信じて叫び続けながら近づいていく。
――っ!?
突如抜ける浮遊感。彼は突然のことに少し驚きつつも冷静に、素早く真っ暗な地面に手を突くとすぐさま前方の方へと向き直る。
――ラ……フム……。
しかし顔を上げたその先にいたのは愛する妻ではなく、その妻の命を奪った異形の怪物であるラフムの巨体。
奴は胴体と思わしき塊から突出した頭部にあたる部分。そこで妖しく光る赤い光りが真っ直ぐにアデルを見つめていた。
そして奴はその背から無数の触手を伸ばし、それをムチのようにしならせるとアデルの胴を打って吹き飛ばした。
不思議と痛みはない。しかし吹き飛ばされていることは確実でどんどんとラフムとの距離が開けていく。
――ア……ルマ。
ゆっくりとラフムへと向けて手を伸ばすアデルは妻の名を姿を思い浮かべながら闇の中へと消えていった。
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