第29話 ラフムたちの脅威⑤
「こち、こちら、こちら本部応答しろ第9班、第10班誰か応答しろ!」
耳のインカムに触れ、通信を繋ぐとノイズ混じりに副官の声が聞こえてくる。
「こちら第10班のアデールベルトだ」
「たった今、巨大なエネルギー反応を感知した。そちら状況は? 大丈夫か?」
「第9班数名死亡、残りは重軽傷。加えて大型のラフムが出現した。応援を求めたい」
「それはこちらでも確認出来ています。こちらも手いっぱいで増援は出せません。しかし残り4分ほどで救援部隊がこちらに到着する予定。ですのでそれまでは持ちこたえて下さい」
「……了解」
通信を終え、隣にいたファイクが怯えた様子でアデルを見る。
「ア、アデールベルトさんあれてまさかあの時の……」
「恐らくな」
「そ、それで本部はなんて?」
「後4分は持ちこたえてくれとさ」
「増援は?」
「無い」
「そんな、それじゃあ、あんなのに勝てるわけ無いじゃないですか‼」
ファイクは涙を流しながら叫ぶ。それをアデルは慌てて制止させる。
「静かにしろ。あいつらは音に敏感だ。忘れたのか?」
「す、すみません」
「いや、いい。……ところでファイク」
「な、何ですかアデールベルトさん……?」
「車は動くか?」
アデルは壁を突き破り、ビルの中で横になっている博士の車を指差す。
「み、見てみます」
ファイクは直ぐに車にのりこむとエンジンキーを回しつつ、動くかどうかを確認する。
「多分、大丈夫です。けど……燃料ほとんどがありません」
「なんメモリある?」
「2……いえ、1目盛り、ちょいあります」
「そうか、十分だファイクお前は下りろ」
「な、何でですか!!俺たちをおいて一人で逃げる気何ですか!!」
「その逆だ!!」
「その逆?まさかあの大型のラフムのところに!」
「あぁそうだ、アイツを殺(や)りいく」
「む、むちゃですよ! あんなのに勝てるわけないじゃないですか!! 死んじゃいますよ!」
肩を掴み、必死にファイクは泣きながらもアデルを止めようとする。
「あいつは敵だ。あいつを殺らないと気が収まらん」
「じゃ、じゃあ僕も――」
「お前いい」
とアデルは否定する。
「いいえ、あの時、あの時、僕がビビってしまって声を上げ逃げたせいなんですから、だからラフムにあなたたちの居場所を知らせてしまったんです。だから僕は、僕はアデールベルトさんの奥さん――アルマさんを殺したの僕のようなものです。だから」
と言い泣きながらファイクは頭を下げる。
「だから、責任を取らせて下さいお願いします」
アデールベルトファイクの肩へと手を伸ばし肩に手を置くと
「ありがとう、でももういい。あんな化け物見たら泣いて逃げるのも仕方がない事だ」
「ありがとうございます」
涙を流しながらファイクはお礼を言う。
――キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
地が震えるほどの巨大な叫び声。
同時に小型のラフム達が一斉にこちらへと向かってくるのが見える。
「救援活動終了した。こちらへと帰還せよ! ラフムたちのいる座標はわかるか?」
「SW 124(ワンツーフォー)だ」
「了解、迫撃砲の支援開始する。お前たちは急いでその場から離れろ!」
「了解!」
「ファイク、この車は破棄だ。下の9班のものを使う」
「アデールベルトさん!」
嬉しそうに叫ぶファイクの隣でアデルは素早くジャイロ・ジェット・マシンガンを構える。
「俺はここから援護を行う。お前は9班の車両を取り返し、同時に生き残っているものを車両へと乗せろ!」
「了解!」
「よし、それじゃあ行くぞ!」
「こちらファイク、アーデルベルトさん9班の生き残りを全員を乗せました!」
「よし!」
アデルはジャイロ・ジェット・マシンガンを手に構えたまま、ビルの窓から飛び出すと義手(アーム)を器用に操りながら突き出ている鉄骨や看板を使いつつ器用に地面へ着地、車両へと乗り込むと止まっていたそれが急発進する。
化け物たちは迫撃砲のおかげで足止めをくらっているようでそれを見かねてなのか大型のラフムがこちらに向かってきたのが見える。
「動き出した!」
「運転頼むぞ」
「はい!」
アデルはマシンガンへとマガジンを詰め直すと近づいている大型ラフムへと銃口を向け、引き金を引く。
ズガガガガ! と甲高く乾いた音が鳴り響く。当たってはいる。だが傷一つ付いていないようだ。
「クソ」
目の前が爆発し、ファイクは体勢を建て直す事で車が大きく揺れる。
「もう燃料が!」
大型のラフムとの距離が近づいていく中で再び目の前が爆発する。
同時にラフムの触手がビルを砕き、止めてある車や看板を吹き飛ばす。
そしてアーデルベルトたちの乗る車も宙を舞い、数回回転し、そして地面へと叩きつけられた。
その際、アデルは車から振り落とされ、勢いよく地面へと叩きつけられる。
響く衝撃と走る鈍痛。様々な感覚がアデルを襲う。最早、骨が折れたのか、出血をしているのか、そういったことも詳しくは分からない。
大型ラフム、その赤く光る眼のような物体がアデルの顔を覗き込むかのように突出した顔らしき箇所を近づけてくる。
しかし、指に力が入らない。ひとさし指は小刻みに震えるだけ。いつもよりとても重く感じる引き金を彼は引くことが出来なかった。
抵抗の出来ない、動けないアデルをラフムはじっと見詰めていた。何をするでもなく、ラフムはただ静かに横たわるアデルを眺めている。
「う……あ……」
そしてしばらくしてアデルの視界は暗く歪み、彼は気を失った。
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