第28話 ラフムたちの脅威④

「ッ! ファイク、生きてるか!?」


 パラパラと砕けたガラスが落ちていく音を聞きながらアデルはゆっくりと起き上がるとファイクはフロントガラスから投げ出され、倒れていた。


「ファイク!」


 アデルは慌てて武器を手に外へと飛び出すと彼の側にまで近寄る。

 どうやら気を失っているだけのようで、傷らしい傷は見当たらない。

 

「おい、大丈夫か! おい‼」

 

 声をかけ、脈を測りつつ心臓の音を確認する。

 

「――‼ 死ぬなよ、貴様、このまま死ぬようならば貴様の屍(しかばね)を化け物どもに食わすぞ!」

  

 外から聞こえてくる悲鳴、アデルは急ぎ、乗り込んできたラフムへプァイファーチェリスカを向け、吹き飛ばすと心臓マッサージを再開する。


 「クソッ!」


 悲鳴と共に聞こえてくる銃声。

 アデルは舌打つと未だに意識を失っているファイクの顎を持ち上げ、唇を重ね合わせる。

 人工呼吸を数回行い、ファイクは蘇生。アデルはホッと息をつく間もなくファイクの銃を彼に手渡す。

 

「ゴホ、ゴホ‼ っ、ここは?」

「ビルの中だ。車が吹き飛んでここに突っ込んだだよ。……立てるか?」

「あ、はい。何とか」


 アデルたちは武器を構え、音のする方へと振り向き、割れた窓から外の様子を確かめると二人は驚愕の表情を見せる。

 

 「え、なん…ですかあれ?」


 ファイクは目を見開き、ただ見るこしか出来なかった。

 家よりも一回りは大きな巨大な化け物。

 

 虫が這(は)っているかのように蠢(うごめ)く胴体からは蜘蛛のような、鎌のような鋭い脚が生え並んでおり、胴体から突出した頭部のような位置からは赤い光が獲物を狙っているかのように妖しく光り、それが、多眼のように密集している。

 

 形は大型犬ほどであったラフムのそれと酷似しているが、異なるのは体から無数の触手が伸びていること。

 

 その触手はウネウネとまるで自分の意思を持っているかのように自由に動きまわり、進路上の障害物を破壊していっている。

 同時に大通りで戦闘を行っている9班のメンバーへと攻撃を加え、時には長い触手で捕らえている。


「うわ、おぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!!」


 体が持ち上がり、悲鳴をあげつつ攻撃を加えるも大して聞いている様子はない。

 兵を捕らえた触手が巨大なラフムの上空にまで移動するとその背がパックリと開き、兵士を食らった。

 悲鳴がピタリと途絶え、兵士たちは敵との圧倒的な差を前に絶望する。


「あ、アイツはあの時アルマを喰った」


 アデルは歯を食い縛り、手を強く握りしめる。

 

「あ、ちょっ待ってアデルさ――」

 

 車へと積みこんでいた火器を取りだし、構えると引き金を引く。

 バズーカ砲から放たれる砲弾は巨大なラフムの胴体へと突き刺さる。がしかし大した攻撃にはなっていないようで表面が削れ、ドロドロとした赤い血液のようなものが滴るのみ。

 

 しかしそれすらも周囲の蠢く物体が塞ぎ、すぐに傷を修復してしまう。

 それでもアデルは手にした重火器を構えると何度も何度も引き金を引いていく。


 大型|弾倉(マガジン)に装填されていた砲弾が切れ、カチカチと鉄の鳴る音だけが響いたところでようやく耳につけていた通信機(インカム)が鳴っていることに気づいた。

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