第20話 約束のために…。③
「いや~見事、見事。まさか用意した隊の一班(ひとはん)をこうもあっさりと潰すとは……どのような手を使ったのかは知らないが、やはり君は素晴らしい」
扉を開くと同時に聞こえてくるのは手を叩きながら椅子に座っている先程の帽子を被った兵士の賛美の声。どうやらあの部屋を監視(モニター)していたらしい。
怒りの続くアーデルベルトは素早く男の襟を掴むと息を荒気ながら言う。
「娘を…ペネシアを解放しろ!」
「君は、今、何をしてるのかわかってるのか?」
帽子を被った男は冷静な顔でしかし、声色を強くしてアーデルベルトの顔を見る。
しばらくの沈黙、それに耐えかねたのかもう一人の兵士が口を開いた。
「それは無理なんです」
「なに!?」
「今の貴方の立場をお分かりですか? 貴方は……こんなことは言いたくありませんが娘さんを人質をとられてるのですよ?」
「それは貴様らがやったのだろうが!」
「確かにその通りです。ですが、我々は軍なのですよ!……貴方も分かっているはずです。我々は上からの命には従うしかないのだと」
「クッ!」
アーデルベルトは男の服から手を離すともう一方の方へと向き直る。
「何をすればいい?」
「貴様……どこを見ている?」
椅子に腰かけた男は立ち上がるとアーデルベルトの顔に拳を入れた。
「グッ!」
アーデルベルトはその場に倒れると男の方を睨み付ける。
「貴様……なんだその目は!」
アーデルベルトに続けて蹴りを入れると男は叫ぶように言う。
「 いいか!貴様の上官は私だ。彼は副官。つまり、この場において一番偉いのは私なのだ! 今後からは私の顔を見て発言をしたまえ!!」
「くっ……了解しました。」
「ふん、そうだ。最初からそうしてればいいものを……まぁ今後の功績によっては今回のことを不問にしてやろう。ありがたく思え」
「ありがとう……ございます」
アーデルベルトは立ち上がり、敬礼をする。
「うむ、では今回の作戦について説明する。ラフムの撃退または殲滅だ!」
ラフム……その言葉を聞いてアーデルベルトの緊張が一気に高まる。
ラフムとは近年になって各地に姿を現した異形(いぎょう)の化け物たちだ。
現在、大型犬ほどの小型種と家ほどの大型種の二種類が確認されている。
ラフムは蜘蛛のような身の毛のよだつ足と獣のような身体をもち、大型種の方は複数の触手を操る。
瞳と思わしきそれは赤く怪しく光り、虫のような金切声でお互いの意思疏通を行う。
やつらは突然現れては顔と思わしき突起から人の血肉を喰らい、街を破壊する。
少し前までは人類は十分に戦えていたが、進化でもしたのか並の拳銃(ピストル)や機関銃(マシンガン)では歯が立たなくなっていた。
最近はずいぶんと大人しくなっていたと言うのに……。
「質問や細かな内容は私の副官に聞け、私には他にもやることがあるのでな。ではよろしく頼むよ」
「はっでは私について来てください」
上官はそう言うと副官は頷き、アーデルベルトを連れて司令室を出る。
「作戦とは何をする……のですか?」
自分よりも明らかに若い副官、タメ口になりかけていた自分に注意して一度言葉を飲み込むと丁寧な言葉を続けて言う。
「私に敬語は必要ありません。……あーそれより先に貴方にプレゼントがありますよ」
「プレゼントだと?」
「えぇ貴方のつけていた昔のロボットのような片腕では何かと不便でしょう?だから代わりの腕を用意致しました。こちらへどうぞ」
副官に言われるままにアーデルベルトは副官の開いた扉の奥へと進んでいく。
「ここは?」
「貴方の腕になるものが、保管されている場所ですよ」
副官はアーデルベルトに続いて中に入ると最低限の明かりで照らされていた薄暗い部屋に明かりを灯す。
明かりが強くなるとともにアーデルベルトはこの部屋に他の誰かがいることに気づいた。
「だれだ?」
「ん? 誰じゃ!明かりをつけおった不届きものは! ……ん? おーーーーー君だね? アーデルベルト君という人は」
真っ白な白衣を身にまとった髭の老人。
男は机の上に置かれたゴーグルのような分厚い眼鏡をかけるとアーデルベルトの方へと近づいていく。
「うむ、よい体つきじゃ。ずいぶんと鍛えておると見える。では、早速だが服を脱いでくれるかね?」
「は?」
いきなりのことにアーデルベルトは少しばかりすっとんきょうな声を出した。
「ほれ、早ようせんか。義手をつける前に色々とその腕の改造もせなあかんのでな、ほれほれ、さっさと服を脱げ!」
「わ、わかった……これでもいいのか」
「うむ、それではそこの椅子に腰かけておくれ」
アーデルベルトは言われたままに部屋に置かれた黒い椅子に腰かける。
ガシャン!と音を立てて片手、両足が拘束され、すぐに身動きが取れなくなる。
「おい! これは――!!」
手首に感じるチクリとした痛み。その直後にアーデルベルトは酷い睡魔に襲われる。
「き、貴様ら……いったい、なんの、つも……り……」
「早速取り付けの作業開始じゃ!」
アーデルベルトの意識が薄れていく中で老人の嬉しそうな声がぼんやりと聞こえてきた。
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