第19話 約束のために…。②
「これは一体、何が……?」
医者は驚きの声を漏らす。
無理もない倒れている兵士の大半が外傷もなく。泡を吹き倒れているのだから。
「彼らは後だ、まずは負傷したものを優先する」
「はい!」
中でも一番偉いのであろう軍医が仲間に指示をだす。
アーデルベルトも手伝おうと思ったが、思い止まる。医療に関しては彼らが専門がだからだ。そこに素人が手を出しても邪魔になるだけだろう。
軍医は機械を用意すると負傷兵士の事を調べ始めた。
「エアウェイは確保できているが、呼吸の様子がおかしい、AはOKだが、Bができていない。だが、サーキュレーションはあるようだ。ABCのうちBだけができていないようだ、不思議なことに胴体のどこかを撃たれたように見えるが出血もなく、どこを撃たれたのか外見からはわからないな」
まるで早口言葉だ。素早く話すその言葉はアーデルベルトには理解できなかったが同じ軍医には伝わっているようだ。
「どう処置したらいい? 人工呼吸をすればいいのか??」
新人なのだろうか?若い声が震えている。その若い軍医は総頸動脈に手を触れ脈を確認していると年季の入っていそうな軍医からの指示を受け「パルスオキシメーター」と呼ばれていたものを負傷した隊員の指にはめた。
「ふむ、脈は問題ないが、SPO2、血中酸素濃度が83と異様に低い、うまく酸素循環できていない証拠だな」
「これはもしかして……」
軍医の一人が手にした刃物で上着を切り裂いた。
ここからではよく見えないが、負傷兵の胸には針で刺したかのような小さな傷が見えた。出血もほとんどしていないようだ。
年季の入っていそうな軍医は低い声で叫ぶ。
「胸部穿通性気胸だ!チェストシールを持ってこい!!」
「これならまだ助かるかもしれない!」
軍医はそれから色々と手際良く処理をすると負傷した兵をタンカーに乗せるとその場を立ち去った。
それか気絶した兵を順にタンカーに乗せて運んで行った。
「よかったー」
扉がしまるのを確認し、目の前の男は安心したような声を出して手を地面につくと天井を見上げる。
「よかったーじゃない。あんなところで銃を撃ったらそうなるに決まってるだろ!」
確かに安堵はするべきだ人が助かったのだからな。だがそれを引き起こしたのは紛れもないこの男だ。
アーデルベルトは沸き上がる怒りに思わず襟(えり)を掴んで叫ぶ。
「……ごめん。――あぁそうだ。あんたあの時の人だよな? あの時は一人で逃げたりして悪かった。謝るよ。あーあんたも無事で良かったよ。それで、あの時のキレイ人と娘さんは元気かい?」
アーデルベルトの頭にあの時のことが浮かぶ。
「クッ」
アーデルベルトは歯を食いしばる。
この男『ファイク・ザルム』が悪いわけではない。誰だってあんな化け物見たら逃げ出すか腰を抜かすに決まっている。
だが、あの時、ファイクが逃げたりしなければ、妻が――アルマが死ぬことはなかったかもしれない。
そう思うと……なんと言えば言いんだ?この気持ちは。
アーデルベルトはギリリと歯軋りをすると拳に力を込める。
「ちょっ苦し」
ファイクに言われ、アーデルベルトは慌てて手を放す。ファイクはそのまま尻もちをつく。
「いってて、何するんですかアーデルベルトさん」
やり場のない怒り、このままではこいつをぶん殴ってしまいそうだ。
アーデルベルトはゆっくりと立ち上がると部屋を出る。
「え、あ、ちょっと無視しないで下さいよ!」
ファイクはしばらくついてきたが、途中アーデルベルトがちから強く睨み付けるとついて来なくなった。
アーデルベルトは壁にあった地図を確認してひとまず指令室に向かう事にした。
収まらない怒り、アーデルベルトはこのやり場ない怒りを途中、壁に向けて思いっきりぶつける。
「クソ!!クソ!!!」
壁に向けて振るわれた拳には妻も守れず、そして娘一人すらも守れないと言う悲しみと怒りも込められていた。
呼吸を乱し、割れた拳から鮮血が顔を出す。
「チッ!」
少しばかり痺れる拳にアーデルベルトは舌を打つと再び指令室へと足を向ける。
そしてアーデルベルトは指令室の扉の横にあるボタンを押して部屋入った。
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