第10話「雲散する冀望」
キィィキィィという化け物たちの声と力強い足音がすぐ真後ろに迫ってきている。
アーデルベルトは後方へ向けて銃の引き金を引きながら走る。
そして危なげなく扉を引き開けてペネシアたちの待っている部屋の中へ。
「アルマ!ペネシア!無事か?」
銃を片手に扉を勢いよく開けて二人の名前を叫ぶ。
「うひゃあ!!」
暗い髪をした少年が蒼い瞳を大きく開けて悲鳴を上げる。
その少年の着ているものは所々破けていて土埃で薄汚れており、靴も片方脱げてしまっていた。
「――っ! お前だれだ!」
「ひっ――じ、自分はファイク・ザルムと言います。今年で16になりま――」
「はっ――ペネシア、アルマ。無事か?」
「えぇ大丈夫よ」「いるよー」
「そうか、良かった……それでお前は誰だ?」
「いや、だからファイク・ザルムと――」
「パパ! うんとねさっきねそのおじさんが急にこの部屋に入ってびっくりしちゃったの」
「そうか。でもパパが来たからもう安心だぞ」
「うん!」
「で? お前は誰だ」
「ファイク――」
「きゃあ! パパ、おっきな黒い虫がいる!」
「何!? よーしパパがやっつけてやる!」
「あの……ちょっと?」
羽音がなり、黒光りする虫が宙をまうとファイクの顔にへばりついた。
「「あ」」
アーデルベルトとペネシアが同時に声を上げると男の裏返った甲高い悲鳴が部屋に響いた。
◇
「む、虫はどこへ行った?」
「安心しろ、そこの、天井近くの窓から出ていったからな。……ぁぁさっきは悪かったな」
「くそぅ、なんで僕がこんな目に……」
アルマの頭に包帯を巻き直すと彼女を壁へ持たれかけさせてその隣にペネシアを座らせる。
それからハンカチを取り出して顔を何度も拭っているファイクにスーツケースから取り出した新品のペットボトルの水(500ml)とウェットティッシュを渡し、謝罪の言葉を述べる。
「いえ、まぁいいんだけどね」
受け取ったウェットティッシュの袋から1枚取り出すと顔と手をそれでしっかりと拭う。
「…………。」
ザルム――確か大手株式会社の名前もザルムだったな。
まさかとは思うが、しかしよく見ると彼の着ているスーツは元は刺繍の施されたとても質の良さそうな、値段もお高そうな服だ。
「あの……何か?」
「いや、君はどこから来たんだい?」
「知らないよ。家にいたら急に化け物が出てきて逃げてきたんだし」
「両親は?」
「知らない。化け物が来たのが急だったから怖くてドライバーと一緒に車で逃げてきたからここの近くで壊されちゃったけど」
「置いてきぼりにしたのか?」
「知らないよ。とにかく僕は逃げてきたんだ。何回も転んで喉もカラカラで走ったんだよ‼」
男は大きな声で叫んだ。自分は苦しんだんだと頑張ったんだと必死だったんだとそんな感情を込めて大きな声で叫んだ。
「パパ……」
ペネシアは怯えた声で父の袖をギュッと掴み、しがみつく。
アーデルベルトは息を荒くする彼に対して驚きつつも落ち着くようになだめさせる。
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