第9話「雲散する冀望」
しばらくして目を覚ましたアルマを連れて近くの部屋に立て籠るとアーデルベルトは彼女を壁にもたれかけさせる。
「アルマ、大丈夫か? ほら、少しでもいいから」
「えぇ、ありがとう………あなた」
彼女は微笑みながら言い、口もとまで運んでもらったボトルからを水を口に含む。
「どうだ? 少しは落ち着いたかい?」
「えぇ……うっ!」
「アルマ、痛むのかい?」
「ママ、いたいいたいの?」
「ううん、大丈夫よ。心配してくれてありがと――ゴホッゴホッ」
「アルマ!」
「ママ、いたいのいたいのとんでけー」
「大丈夫よ。ちょっとむせちゃっただけだから」
アルマは二人へ微笑みかけるとペネシアの頭を優しく撫でる。
「ママ……いたいのいたいのなくなった?」
「えぇペネシア、ありがとうね」
「えへへ~……」
「…………。」
笑顔を作ってはいるが、どこか苦しそうな表情。
無理をしているのがもう何年もの間共に暮らしているアーデルベルトには手に取るようにわかる。
頭を撫でられて無邪気に喜んでいるペネシアの後ろでアーデルベルトは真剣な表情をしたままゆっくりと立ち上がる。
「……あなた?」
「アルマ、少し待っていてくれ。薬とかを入れていた荷物を取ってくる」
「あなた、ダメよ。外にはあの変な生き物が……助けが来るまで待っていた方が良いわ」
「だが、そのためにはカバンの中身を持ってないと食料が無けりゃ結局ダメになっちまう」
「……そうね、確かに……食べるものは必要よね。あなた、ちゃんと戻ってきてよ?」
「分かっているさ」
アーデルベルトは頷いた後、こちらを見て心配そうにしているペネシアの頭を優しく撫でる。
「いいかい? ペネシア。ママをちゃんと見てるんだよ? 怖いのが来たら助けてって大きな声で言うんだよ? すぐにパパがやっつけてやるからな」
「うん……パパ、行ってらっしゃい」
「あなた、気をつけて」
「あぁ、もちろんだ」
力強く返事をして静かに扉を開けると腰のファイブセブンを構えて通路を歩く。
駐車場へと続く扉を静かに開けて耳を澄ますと少し離れた場所から足音が聞こえてくる。
人ではない足音。正確な数は分からないが、それなりの数がいることは確かだ。
この足音が例の化け物のものであるということは火を見るよりも明らかだが、今後のためにも薬、食料が必要だ。
アーデルベルトはゆっくりとボロボロになってしまった自分の車の元へと近づいていく。
化け物に気づかれないように静かに……こっそりと……。
周辺を警戒しつつ車の後方へとたどり着くとアーデルベルトはトランクのトビラに手をかけると力いっぱいで開け、出来た隙間にいれた足で強引にこじ開ける。
「パパ‼」
「――っ‼」
トランクの中からスーツケースを取り出し、一息つく暇もなく聞こえて来たのはペネシアが父を呼ぶ声だった。
化け物たちにもこの声が聞こえたようでカチカチとゆうクモのような足音が近づいてくるのが分かるが、今はそんなことは気にしている場合ではない。
アーデルベルトはスーツケースを片手に走り出すとアルマたちの待つ部屋へ急いだ。
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