その2 恋人への尊敬


「あ、この間、反論ばっかりしてくる生意気な新卒が入ってきたって言ったから心配してくれたのか?」


 だから私はいい彼女になりきって、どういうものかとお試ししているのだ。


 私の考えを受け入れてくれる人がいないのならば、私が相手に適応しないといけない。



 夢ばかり見ていると、本当に婚期を逃してしまう。

尊敬する人に付属オプションで甘い言葉や彼氏という立場、記念日などがほんの少しついてくるだけだ。そう、ほんの少しだけ。


「あ、うん、そう。そうなの。心配したの」


 私の髪に彼の手が触れる。


窓からみえる五番目くらいに大きいビルの赤い光をぼんやりと見つめた。


 そりゃあさ、何やってるんだろうって思うときもあるけど、夢と現実って違うから、どうしてもどこかで妥協しなきゃなんだ。



 本当はこんなドラマみたいな展開も部屋も夜景も彼についてくるオプションもいらない。


 彼の尊敬するところとは。

仕事に一生懸命で部下の面倒見がいいところ。


でも私は彼が職場で働いているところをみたことがないから、友達の話だ。

彼の人柄をみてもそんな感じがしたから、私にはとても薄いものである一生懸命さや、私には皆無の面倒見の良さを尊敬した。


 彼の尊敬するところを聞くしかないなんて、不満は募るばかり。かといって職場見学にも行けないし。


 この頃、彼のことが恋愛感情で好きなのか、とても曖昧になってしまった。


私には中々目に見えづらい一生懸命さ、面倒見の良さはきっと好き。

けれど、いちいち目につく一般的な彼氏の彼。



 嫌なところばかりが目につく倦怠期ってやつ?

いや、彼の尊敬が見えづらいから不満が募っているだけだ。


 彼のことをちゃんと考えよう。

面倒見の良さは私に飲み物はいるか、歩く速さはどうかと尋ねてくるところなんじゃないのかな。


一生懸命さは、今のこの状況。

サプライズをし、女の子が喜ぶことをしてくれるところ。

ほら、考えてみると仕事に限ったことではないのかも。



 彼が私の頬に触れ、自然と彼の方を向いた。手がひんやりと冷たく感じる。


 このまま、彼のしたいようにさせておけばいい。そうしたらきっと満足するのだから。


 爪に塗られた薄桃色がなんとなく目に入った。

爪からマニキュアが所々はみ出してしまっている。

大人の女性を意識して、私はそれらしくしているつもり。


マニキュアだけではなく、パックをしてみたり、洋服を買ってみたり。でもそれはただの行動で気持ちは伴わない。


 それらしくしてみても私にはさっぱり理解できない世界だった。



 なにしてんだろ、ほんと。



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