第21話 岐路

 それからしばらくは、勇の策の通りにことが進んだ。山南は真面目な男なので月謝にプラスして「沖田さんと毎日会わせて頂きありがとうございます代」を勇に支払っていたし、彼が私目当てで毎日のように道場に通っていたので、北辰一刀流の剣士が鞍替えした天然理心流、といった具合に道場の知名度も上がっていった。私が白河藩のおやじを倒した噂も完全に消えたわけではなく、それも手伝って門人の数は一気に増えた。これらの噂は全て歳三が行商ついでに流した裏工作で、周助先生から謝礼金ももらっていたらしい。

 歳三は試衛館のリーダーたる勇をヨイショするのも忘れず、山南の入門については「立ち合いで勇に敗れたから」ということにしたらしい。酔ってそのことを私に話した歳三の目は、いかにも凶悪に笑っていた。

 私は一日に一人は増えていく門人全員と戦い、勝利した。最初のうちは皆「子供だから手加減してやってんだね」と内心思っていたが、三日も立つと私がマジの天才だと気づいたらしく、扱いが変わった。誰も私と試合うとしなくなったのだ。大人が子供に負けるのが恥ずかしいというのもあるんだろうが、それより自分が身につけられなかった才能をさも当然のように竹刀に込めて一閃を振るう私を間近で見るのが辛い、というのが強かったように思える。そんな感じで三日に一人は、誰かが辞めた。

 珍しく周助先生の部屋へ続く襖を開くと、どこぞの藩主のような風格で正面に勇がいた。周助先生は、勇の隣で胡坐に頬杖をついた格好で萎れている。当然ながら、私の最近の行動についてであった。

「総司、今週でもう五人が辞めた」

 勇の言葉を「へえ、そうなんすね」と嘲笑った私は、正座もやめて胡坐をかいた。何だよ、才能の差はあるにしても、お互いに真面目にやり合って勝つことの何が悪いってんだ。

「道場としては、門人に辞めてほしくは無いのだ」

「知りませんよ。数だけ見れば前よかマシでしょ。私だって困ってるんです」

 と言い残して、私は部屋を飛び出した。

 辞めていった門人の中には、私に想いを告げてフラれた人間も少なくは無かった。というか六日に一人はそれが理由で辞めていったのだ。逆恨みで散歩中に襲われることも一度や二度ではないし、同じ理由でありもしない私の悪い噂を流してスキャンダルを狙おうとする輩もいた。

 それでもなおこの道場に居座り続けるのは、天然理心流を誰より極めるしか自分に道が無いからだった。この年になってくるとそろそろ現実も見えてきて、大名家への士官なんてあるはずがないぞ、という正道な答えを見つけてしまう。私は自分がどうすれば良いのか、結局この人生で何をしたいのか、男らしく武士として生きるのか、女らしく誰かに貰われるか、いまだにわからずにいた。

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