第13話 旧知

 それから、なんやかんやあって、土方歳三は試衛館の門人になっている。というのもあの日、彼は結局道場破りができなかった。

 面をつけて正座する勇のもとに、私は歳三を連れて行った。

「あんたが道場主か」

「うむ。近藤勇と申すで御座る」

 とってつけたような武士言葉にぷっと顔を伏せた歳三は、眉間にしわを寄せて、あえて勇の真似をした。

「某は、土方歳三と申すで御座る」

「え、トシさん? もしかして、石田村の土方さん?」

「え、はい、そうですけど」

 勇は慌てて面を放り投げ、自分の悍ましい顔を指した。

「俺だよ、俺俺。勝五郎」

「え、あ、宮川さん!」

「宮川って呼ぶなよ、今、近藤だからさ」

「うっわ、え、久しぶりっすね。え、何やってんすか?」

「見てのとおりよ、ほれ。武士やってんのよ、武士」

「すげえ、え、刀持ってみて良い?」

「駄目でーす、武士の魂でーす」

「え~!」

 二人は同郷の知り合いで、お互いのことは勇が日野の道場へ出稽古に出かけていた時に知っていたらしい。

 この二人を繋いだのが、意外なことに平凡な地味男・井上源三郎の兄ちゃん・松五郎であるらしい。さっきから「らしい、らしい」って推測ばっかだね、ウケる。

 そんな松五郎の友人に、佐藤彦五郎という男がいる。まあ、ゴロちゃんコンビとか言われてたんだろう。彼は日野の農民たちのリーダー的ポジションであった。

 松ちゃん彦ちゃんは二人で周助先生に剣術を教わり、二人ともそこそこ上達した。そして松五郎は自警団の一員となり、彦五郎は地元に自分の道場を構えた。天然理心流・日野支店だね。そんでもって彦五郎はその頃、出稽古のため定期的に本店から支店にやってくる勇と知り合った。

 さらに彼の妻は歳三の姉であり、この頃はぼんやり「武士、なりてえなあ」とだけ考えていた歳三は、近場ということで義兄の道場の門を叩いた。やっぱ道場は、近場に限る。

 こういった経緯で偶然出会った勇と歳三の二人は、日野の道場で意気投合し、会って初日で義兄弟の契りまで交わしてマブダチとなる。そして、この日、偶然にも再開したのであった。

「トシさんよお、武士になりたいなら言えよ~。うちで面倒見っからよ」

「え、あざっす。悪いっすね、なんか」

「つか、トシい。試衛館って看板に書いてあったろ。忘れてんじゃねえよお、親友の職場だぞ~」

「え、そんなのありましたっけね、ええ」

 まあ、仕方あるまいな。あんな汚い看板掲げているより、私が門前で掃除していた方が人は来る。特に歳三みたいなのはね。

 そんなこんなで彼も正式に試衛館の一員となったのである。

 何がムカつくって、こいつさ、漫画小説アニメにドラマで、超クールなイケメンに書かれるじゃない。で、その度に私が子供っぽいお馬鹿ちゃんになって「総司、うるさいぞ」なんて言われてんの。

 なんで私がインテリヤクザ見習野郎に窘められなきゃならないんだ。

 後さ、あいつ、アパレル店員だったわけ。で、ファッションのこととかすげえ五月蠅えの。私くらい顔が良けりゃ、何着たって惚れられるってのにさ。暇さえありゃ服の話してんのよ。

「ワンポイントで面紐のカラー変えてみたんだけど、やっぱディープレッドよりワインレッドとかのが、良かったかな」

 とか、言われても知らねえって言ってんの。何がワインじゃ、馬鹿。お前はもっと明るい赤のが似合うよ、馬鹿。コーラルレッドとかにしときなよ、馬鹿。

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