オレンジの片割れ

向日 葵

第1話 白いうさぎ


1 オレンジの片割れ 


誰かのことを「オレンジの片割れ」と呼ぶのは、古いスペインのことわざで、その人が自分の魂のパートナーで、生涯愛する人であることを意味する。


綺麗な曲線で二つに別れたオレンジの形をしたネックレス、

望奈(みな)が持っているのは右側。


この子の場合「オレンジの片割れ」は双子の姉である。


一生二人で仲良く、寄り添って生きて欲しいという願いを込めて、母が3歳の誕生日の時に2人にプレゼントしたものである。


望奈がネックレスを高く持ち上げて、「みかん!みかん!」と喜んだところ、


「オレンジだよ」と、母の奈菜子が頭の上に軽く手を乗せながら優しくささやいた場面は今でもぼんやりと望奈の脳内に残っている。


二卵性の双子ゆえに、この姉妹は見た目も性格も全く似ていない。

姉の友菜(ゆうな)はバスケ部のキャプテンを務めたり、全国模試で5位を取るような、いわゆる天才肌の優等生。姉とは正反対で、妹の望奈はファッションに凝り、文書を書き、一人の世界を満喫しすぎて、学校はついサボりがちになってしまういわゆる「問題児」であった。


幸いなことに、双子の両親は成績重視の人ではなかった。

問題児扱いされがち望奈だが、優秀な姉と比べられて、小言言われたり、肩身狭い思いはそんなにして来なかった。


強いて言うなら、隣の石田おばさんに時々心配かけてしまうのが気がかりなくらいかな。


「望奈ちゃんまた学校来ていないって、うちの子が言ってたけど、そろそろ注意した方がいいんじゃない?もうすぐ高校三年生で、大学進学も控えてるわけだし...」


今日のこの瞬間も、玄関先で石田塔子おばさんと望奈の母が話している。よく通る声が薄い窓では遮れず、ついつい望奈の部屋までやって来てしまう。

だからってその日の夜母に注意受けたり、怒られる心配はないが、やはりもやっとし気持ち残ってしまうものである。


望奈だって、おばさんのことは嫌いじゃない。

おばさんは小さい頃からよく焼きたての団子を食べさせてくれた。

ホクホク、もちもちな団子に、自家製のみたらしソース、この絶妙な甘さと噛み応えはまさに絶品で、ずっと姉妹の大好物である。


「このプリント、佑都(ゆうと)が望奈ちゃんにって」


「いつもありがとうね。塔子がお隣さんで本当に助かった!」


石田塔子と望奈の母親である新井奈菜子は学生時代からの親友である。


仲が良すぎて近くに住むようになったと、望奈は父親の潤一から何度か聞いたことがあった。



「いえいえ、望奈ちゃん友菜ちゃんにまたいつでも団子食べに来てって伝えといて!」


(ほら、やはり優しいおばさんなの。行く行く、明日にでも行く!)


望奈は部屋で一人、無邪気な笑顔を浮かべて、心の中で二つ返事した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

オレンジの片割れ 向日 葵 @himawarimxx

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る