特別編

特別編 笹原鞘へのインタビュー

 ――鞘!—————笹原鞘!


「は?お前誰だよ?」

 

 私はお前達の物語を一つ上の次元から眺めている者。言わば神の使いだ。

 って、ちょっと待て!何そそくさと立ち去ろうとしている。神の使いだぞ神の使い。


「そういう遊びならよそでやれ。俺は今モデルのバイトが終わって疲れてる。さっさと家に帰りたいんだよ。じゃあな」


 待て待て待て、行くな―!よーし、こうなったら最後の手段だ。


「早えな最後の手段!まだ最初の手段だろうが!」


 細かい事は気にしない。ご通行中の皆様、笹原鞘の好きな人はーー


 ゴンッ!


 殴ったな⁉神様にだって殴られたこと無いのに!


「やかましい!なに小学生レベルの嫌がらせしてんだよ!」


 嫌がらせなんてとんでもない。私はアナタにインタビューするという指名を受けて、この地上ぐんだりまで来てやってるんです。


「えらい言われようだな地上。つーかインタビューって何だよ」


 season2が終わったから特別編を挟もうってなって。登場人物にインタビューしてみようって企画が生まれたんだよ。というわけで早速インタビューを。


「アホらしい。付き合ってられるか」


 待て待て、だから行くなって。


「俺へのインタビューなら少し前に出た雑誌に書かれてるから、それを読め」


 こいつめー、モデルってことを鼻にかけやがってー。


「仕方ないだろ、事実なんだから。というわけで俺は帰る」


 あくまでインタビューさせない気か。よーし、こうなったら奥の手だ。


「さっき最後の手段とか言ってなかったか?」


 細かい事は気にしない。笹原鞘、皐月のアルバムを見たくないか!


「なっ⁉」


 どうだ、見たいか?私は神の使い特権で、本人には内緒でアルバムを入手してるんだぞ。


「さらっと犯罪的なこと言うな神の使い。べ、別にそんな物見たくねーよ」


 そうなのか?しかたない、アルバムはゴミに出すか。


「なに皐月のアルバムを捨てようてしてんだよ!」


 だって誰からも見たいと思われない皐月なんかのアルバムは無価値。ただのゴミじゃん。


「お前……殺す」


 止めろ止めろ!もし私が死んだら、アルバムは自動的に消滅する仕組みになってるんだ。


「何だよその仕掛け!?」

 神の使いのなせる技だ。で、インタビューどうするの?


「ふ、ふざけるな。皐月のアルバムをちらつかされたくらいで、い、言いなりになると思ってんのか」


 仕方ない、燃やそう。


「燃やすな!インタビューに答えれば良いんだろ!」


 おおっ、ようやくその気になってくれたか。では早速…


 Q.笹原は今まで何人彼女がいたんですか?


「……おい、何だよこの質問?」


 質問に質問で返すのは感心しないな。まあぶっちゃけると、お前モデルやっててモテるから、今まで何人の女を手込めにしてきたかを知りたいんだ。


「最高に人聞きの悪い事を!だいたい、女と付き合った事なんてねーよ!」


 えっ、じゃあ男と付き合ったことは?


「あるか!」


 無いのか。女装姿が可愛かったから、もしかしたらと思ったんだけどな。

 けど何でまた。モテるんだから選り取り見取りだろ。私がイケメンでモデルやっててモテモテだったら、毎日とっかえひっかえですよ。


「最低だな神の使い。お前がイケメンモデルじゃなくて良かったよ。まあ真面目に答えると、誰かと付き合おうって気が起きねーんだよ」


 ほう、それまたどうして?


「言いたかねーけど、俺は小学校終盤まではチビで、モテてもいなかったんだよ。けど急に背が伸びてモデルにスカウトされて、その途端ちやほやされだしたからなあ。悪い気はしないんだけどそいつら、モデルって肩書きに惹かれてよってきたってだけで、本当に俺の事が好きなのかって、つい考えちまうんだよ」


 まあ確かに。肩書きばっか見て君の内面なんてどうでもいいって思ってる子が多数派だろうね。


「非常にトゲがある言い方だな。とにかく、そう思っちまってる以上、付き合っても上手く行くとは思えないだろ。そりゃ中にはそうで無い奴もいるかもしんねーけどさあ」


 なるほど。それで今でも涙を飲んで、悲しい独り身を貫いているんだね。


「お前、やっぱり喧嘩売ってるか?」


 ま、まさか―、誤解だってば。だからその振り上げた拳をしまって。それにしても、渋っていた割にはちゃんと質問には答えてくれるんだね。


「仕事柄癖になってるんだ。それより、早く出せ」


 何を?


「皐月のアルバムだよ。見せるって約束だろ」


 ―――はあ?


「何だそのバカにしたような顔は!?さっさと見せろ!」


 あれー?もしかして君は、何か勘違いをしているのではないかなー?


「なんてムカつく喋り方だ。勘違いって何だよ⁉」


 私はアルバムを見たくないかと尋ねただけだよー。見せるだなんて一言も言ってないよー。なのに何勝手に見せてもらえるって思っちゃってるのかなー?


「本当に、マジでムカつくなお前。もういい!もう帰る!」


 待ちたまえ少年。


「今度は何だ!」


 写真、見せてやろうか?今度はちゃんと、インタビューに答えたら見せてやるぞ。


「本当かっ⁉いや、その手にのるか。どうせまた何か小細工をする気だろう」


 そうか、ならしかたない。この写真は内緒でネットに上げて拡散させよう。


「それが神の使いのやることか!」


 嫌か?だったらインタビューに答えてくれる?


「―――ッ!」


 せっかく写真を見れるチャンスなのに、棒にふるんだね。


「こ、答えれば良いんだろ答えれば!その代わり、今度はちゃんと写真を見せてもらうからな!」


 ようやくその気になってくれたか。では質問です。


 Q.保育園時代、最初は嫌がっていた魔女のコスプレをしたのは何故ですか?


「……それを聞くか。ていうかそれ、本編で明かしてたろ。皐月に強引に進められたんだよ」


 それはわかってる。だけど本当に嫌なら、駄々をこねて断れば良かったよね。それなのに結局衣装を着たのは、何故なのかな?


「―――ッ!仕方ねーだろ!アイツが…可愛い顔して笑いながら、『お願い』って言ってきたんだから」



 ハッハッハッ、さすがのモテキャラも、惚れた女の子には弱いんだね。

 そうだ!悪いか!あの時の皐月、まるで天使のような笑顔だったんだよ!」


 それはまた…ずいぶんと美化されて。でもさっちゃんの方は、その時の事はうろ覚えで、あげく君を女の子だと思い込んじゃったんだね。可哀想(>_<)


「同情するな!それと皐月の事をさっちゃんって呼ぶな!ああっ、けどムカつくことにお前の言う通り、アイツはすっかり記憶を書き換えてやがってたな」


 哀れ…


「哀れむな!くそっ、あの時は天使の微笑みのように思えた笑顔が、今思い出すと悪魔の笑みに見えてくる」


 悪魔?神の使いである私の仇敵ですね。


「言っとくが俺からすれば、お前も十分悪魔だから。欲望を刺激させる物をちらつかせて、罠を張り巡らせやがって。さあ、ちゃんと答えたんだから、写真を見せろ」


 ほいほーい。ほら、これ見てみなよ。可愛い寝顔でしょ。


「………おい」


 こっちはどう?海ではしゃぐ姿。あとこれは、カラオケで歌ってる所。


「おいっ!」


 わ、びっくりした。何なんですか大きな声出して。


「俺が見たかったのは皐月の写真だ。だがこれは……お前の写真だろうが!」


 フッフッフ。誰が皐月の写真を見せると言った?


「てめえ、ハメやがったな」


 何をおっしゃいますか。こうなるって薄々感づいてたんでしょ。


「―――ッ!ああ、悔しいが確かにその通りだ。絶対に罠だとわかっていながら、もしかしたらと欲に目が眩んだ自分が情けない」


 でもいいじゃないですか。私の写真だって中々拝めませんよ。


「一生見たくなかったよ。何が悲しくてお前の写真なんか見なきゃなんねーんだ」


 ひ、酷い。


「やかましい!こんな物こうしてやる!」


 メラメラメラ。


 ああーっ、私の思い出のメモリーが燃やされていく!


「思い出のメモリーって、意味被ってるじゃねーか。まあいい、今度こそ俺は帰る。誰がなんと言おうと」


 待ちたまえ少年!水城皐月の中学時代の写真、インタビュー答えてくれたらあげても…


「何を答えればいい?さっさと言え!」


 おおっ、さっきまで渋ってたのが嘘のように乗り気ですね。


「どう転んでも欲に勝てる気がしないからな。さっさと答えて写真を貰う。言っておくが、写真を持ち上げて『はい上げた』ってやったらマジで殺すからな」


 や、やだなあ。そんな事するわけ無いじゃないですか。それじゃあ質問いきますよ。


 Q.現在基山という恋敵がいるわけですが、基山と自分、どっちの方が格好良いと思いますか?


「愚問だな「。そんなの俺に決まってるだろ」


 随分自信たっぷりですね。そんなに基山のことを見下しているんですか?


「そんなんじゃねーよ。客観的に見てだ。ろくな女はよってこないけど、一応俺はモテるからな。気弱でヘタレっぽい基山よりは格好良いだろう」


 言いきりましたね。では皐月争奪戦も楽勝だと考えてるって事でいいんですね。


「それは…どうだろうな。あくまでこれは一般論だからな。けど生憎皐月は、周りの評価に流されるやつじゃないだろ」


 まあ確かに。どれだけ周りが騒ごうと我関せずですね。


「皐月は肩書きとか見てくれに、一切左右されないんだよな。けど、それで良いんだよ。俺もアイツの、そういう所を好きになったんだしな」


 さらっと愛を語りますね。肝心の皐月には全然届いていない寂しい愛ですけど。


「うるせえ!そんな事より写真を出せ」


 わかったわかった。はいよ、中学時代の皐月の写真。どう、可愛い?


「………なあ」


 何ですか?ちゃんと皐月の写真ですよ。


「確かにそうなんだけどな。これって生徒手帳とかに張られている、無表情で味気も何も無い、証明写真じゃねーのか?」


 そうですよ。使わなくなった中学時代の生徒手帳から、私がこっそり抜き取ってきた証明写真ですよ。


「泥棒じゃねーか!それに、想像していた写真とは違うじゃねーか。何だよこの地味な写真は」


 そんなの、アナタが勝手に期待しただけですよ。いったいどんなのが良かったんですか?


「そうだな、例えば……黙々と本を読んでいる時の写真とか?」


 地味じゃん!それで満足なの⁉


「良いだろ別に、どの道そんな物は無いんだけどな。それはそうと、この証明写真はありがたく貰っておくわ」


 貰うんかい!しかも有り難く!ああ、財布にしまってる。さては肌身離さず持ち歩く気ですね!


「悪いかよ。証明写真と言えど、中学生の頃の皐月が写ってるんだぞ。貰わない手はないだろ!」


 それで満足なのか。まあ良いけど。

 さて、インタビューはこれにて終了、お疲れ様です。もう帰って良いですよ。


「言われなくても。ああそうだ、一つお前に言っておくことがある」


 何ですか?


「二度と来るな!」

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